愛し愛され。振り振られ。【灰谷竜胆】

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「待てコラ」




竜胆が、私の肩を掴んで引き止める。

美愛ちゃんには、そんな言い方しないくせに。
彼女見てるのに、いいの…？




「……なに」
「呼んでんだろうが」




意味わかんない。
なんで、こんな喧嘩腰なのかも、わざわざ私を引き止める理由も。




「竜胆…、女の子にそんな言い方…」
「……え？あ、あぁ、そうだな」




美愛ちゃん優しいな。
可愛い上にこの性格。

竜胆が惚れるのも、頷ける。




「送ってあげるんでしょ？行って」
「待てって！」
「竜胆…？」
「美愛あの……、あっ、おい！」




美愛ちゃんに呼ばれ、竜胆が一瞬私を離した隙に家に入った。


ダメだ。
なんか体中が熱くてだるい。


ベッドに辿り着けず、ソファに横になった。


こんな酔っ払ったの初めて。




水を飲みたいけど、動けない。
もうこのまま寝ちゃお。



頭がフワフワする。
息苦しい。暑い。辛い。



冷たい空気を探して、手を伸ばす。
どこに行ったら楽になれるんだろうか。



田舎の澄んだ空気が恋しい。



そんな事をぼーっとする頭で考えていた時だった。



冷たくはない、
心地良い体温が、私の手を包んだ。



……気がした。




「A」




誰かが私の名前を呼んでる。
ママ？パパ？


耳障りが良い声に、体のダルさが抜けていくような気がした。




「怖い夢みてるの？」




子供の頃の記憶だろうか。
現実なのか、夢なのか。


将又、その狭間なのか。




「俺が追い出してやるよ」




フワフワする頭を
誰かが、絶えず優しく撫でてくれる。



俺…？


あぁ、きっとパパだ。




「大丈夫だ」

“苦しい”

「俺がいるから」

“助けて”




声がうまく出ない。


でもすぐ近くにパパがいるだけで、
この上ない安心感が生まれた。



幸せな夢に変わり、

そこで私の記憶は、プツンと途切れた。




目を開ければ、見慣れた天井。
あれ。私ソファで寝てなかったっけ…？


いつの間にか、フカフカなベッドの上。




「パパ…？」




やっぱり夢だったんだ。
静かな自分の部屋に、落胆した。


すると、徐に寝室の扉が開き、息を飲んだ。




「起きたか」
「りん、ど…えっ？なんで」
「鍵ちゃんとかけろや」




ベッドに腰かけ、私の頭を抱え、額を合わせる。




「少し下がったか？」
「なにしてんの…」
「お前、熱あった」




熱…？

てことは、酒に酔ったんじゃなくて、
体調が悪かったってこと…？

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