愛し愛され。振り振られ。【灰谷竜胆】

11 ページ11

チッと舌打ちをして立ち上がる竜胆。




「大丈夫か」
「……あ、うん」
「帰んぞ」




歩き出した竜胆に続こうとしたら、ガクンッと膝から崩れ落ちた。


安堵？恐怖？
どうやら、腰を抜かしたらしい。




「全然大丈夫じゃねぇじゃん」
「ごめん、すぐ立つってわわわ！」




竜胆は私の膝裏に手を入れ、横抱きにして歩き出した。

後ろでは、兄貴が警棒で男たちを
ボッコボコに殴っている。




「手の掛かる猫だな」
「竜胆、もうだいじょぶ！」
「狼の次は、熊に捕まりやがって」




確かにあの親父、熊っぽい。
恰幅良いし…って、違う！話を聞いてよ竜胆！




「も、もお自分で歩ける！」
「黙れ」




あわわ。
怒られた。


結局、今日も竜胆に家まで送ってもらった。
昨日と違うのは、竜胆に抱えられ帰宅した事。




「え？私んちコッチ！」
「……」




無視ですか…。


器用に鍵を開けて、竜胆の部屋へ。
お邪魔します…。


私を横抱きしたまま、ソファに腰かけた。




「アイツお前んとこの客？」
「うん…」
「過去にも搔っ攫われた事あんの？」
「ない…けど、」
「けどなんだ」




事の経緯と、今までの事を話した。
段々眉間の皺が深くなる竜胆に、私の声は小さくなってく。




「お前、店やめれば」
「田舎に帰れと？」
「実家コッチじゃねぇんだ？」
「うん、田舎娘なの私」




私は、君みたいなシティボーイじゃないのだよ。

興味なさそうに「へぇ」と呟いて、
私のほっぺを指でツンツン。




「見えねぇな、可愛い顔してんじゃん」
「……へ、なななっ！」




免疫のない田舎女に、
真顔でそんな甘い言葉、簡単に言わないで！




「俺の可愛いニャンコちゃん？」
「竜胆のじゃないし、猫でもないし！」
「面倒見てやってんだろ、懐けよ」
「……なんで、そんな良くしてくれるの？」




たかが、三回程度会っただけの女。




「わかんね」




数秒無言で見つめ合い、
竜胆の顔が近付いて来て、目を閉じた。


prrrr


タイミング良く竜胆の携帯が鳴って、正気に戻る。
なにやってんの私！



竜胆の着信画面に見えた「美愛」の文字。




「か、かえるね！」
「は！？おい、待てよ！」




携帯を見つめる竜胆を押しのけ、部屋を飛び出した。


そうだ、竜胆には大事な人がいる。


私なんかを、本気で相手にするわけないじゃん。
流されて、その気になって、バカだなぁ。


これ以上深く関わってはいけないと、涙を飲んだ。
胸の痛みに気付かぬフリをして。

12→←10

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す