81194: 掌にキスを ページ1
––ファイル番号6171944 起動します。
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彼女、Aは全聾だ。
《今日は鬼ごっこしないのか?》
《うん。今日はレイと一緒に読書する》
こんな具合に。
掌に指を滑らされる感覚には未だ慣れないが、触れるAの手が、柔らかくて、温かくて。その感覚は嫌いじゃなかった。
はしゃいだ声を遠くに感じながら、本の頁を黙々と捲る。ふと、影が射した。
Aが覗き込んで来たのだ。何か言いたげな彼女は俺の手を取って言葉を綴る。
《––
《
この年頃ならそのような事に興味を持つのも頷ける。只、次に綴られた言葉は予想だにしなかったものだった。
《
ここからは俺の興味本位。Aが惚れた相手がどこの馬の骨か、単に気になっただけ。
《––どんな奴?》
Aは少し驚いた様子を見せたが、気恥ずかしそうに指を動かし始めた。
いつも一歩遠くから、皆を見てる。
太く一線引いて、情は移さないように。
皆の事を誰よりも考えている、優しい人。
素直じゃなくて、意地っ張り。
全然笑わないし、怒ったりもしない。
自分の感情は押し殺す人。
それでも、偶に見せる笑顔が、
「だいすき」
風に吹かれた嫋やかな髪が揺れて、アクアマリンの瞳が美しく陽に輝いて。
白魚のような彼女の手を取って、柔らかく綴る。
《
アクアマリンが誰?と問うように輝く。その視線に答えるように、陳腐な愛の言葉を贈った。
綴った “
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作者名:雨 | 作成日時:2019年5月5日 20時