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目の前で起こっている世にも奇妙な光景に、彼女は目を見開く。死体、しかも頸動脈を切った死体が再び動き出すだなんて有り得ない事だ。それに、先程血を流していた筈の傷口も、綺麗に塞がって無くなっている。彼女が切り損なった訳ではない。その証拠に、頸動脈周辺の皮膚や服の襟が血で汚れていたし、現に彼女の持つナイフにも男の鮮血で濡れていた。
 有り得ない、そんな事。彼女は眼前の怪奇現象が理解できず、思わず後退りをする。

「痛ーっ! お姉さん、酷いよ。危うく死ぬ所だった!」

 いや、確実に死ねる重傷を負わせた筈なんだけど。なんてツッコミが喉元手前まで出てきたが、すぐに飲み込んだ。こんな所で漫才をしている暇は彼女には無い。しかし、すぐに動く事が出来なかった。姿を見られた上、殺した筈の相手が何事も無く起き上がる事態をどうやって処理すれば良いのか、本気で分からないのだ。
(もう一度殺し直す? いや、殺し直すってなんだ。だが、もう一度殺したとして、また起き上がったら──)
 考えが堂々巡りして、一向に答えが導き出さない。そもそもこれに答えがあるのかも分からない。科学的にも証明し難いそれに、自分が疲れて幻覚でも見ているのではないかとさえ思ってしまう。それこそ有り得ないの極みだ。現実を見続ける彼女には、今見ている状況こそが現実で、夢でも幻覚でも無い真実なのだから。

「その様子だと怪我はしてないのか。良かったー」

 相手の心配をしている場合か。しかも、一度自分を殺した犯人の心配だなんて。馬鹿みたいに微笑む青年の呑気さに、呆れて物も言えない。跡すら残っていない首筋が憎らしい。
 どうすれば、首筋の傷の様にこの男を消し去る事が出来るのだろうか。どうすれば、此処に居る男を殺す事が出来るのだろうか。どうすれば、自分の為に居なくなってくれるのだろうか。どうすれば、どうすれば……。
 堂々巡りの最中、徐々に焦げた臭いが周囲に漂い始める。まるで自分が燻されているかの様な臭いに噎せそうになる。青年も異変に気付いているのか、「どっか家事かな?」と呟いて服の袖で口元を覆い隠した。

「此処だと放火魔と間違われそうだし、離れた方が」

 ──ぶすり。青年の喉にナイフが突き刺さった。煩わしい声を絶つ様に、彼女は喉に向けてナイフを投擲したのだ。再び倒れる男。今度はナイフを抜かず、彼女は骨が入った麻袋を担いで走り出す。
 逃げたのだ。現実では有り得ない怪奇から、彼女は脱兎の如く逃げ出した。

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十二月三十一日(プロフ) - づみさん» 有難う御座います。読んで頂き光栄です。更新頑張りますので、今後共宜しくお願いします。 (2018年3月3日 2時) (レス) id: 70aae954fa (このIDを非表示/違反報告)
づみ(プロフ) - お話がとても好きです、更新たのしみにしています。頑張ってください〜 (2018年3月2日 16時) (レス) id: 688586594f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:十二月三十一日 | 作者ホームページ:   
作成日時:2018年1月18日 21時

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