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──吸血鬼。読者である君達ならば、物語等で触れた事がある単語だと思われるが、彼等の生きる19世紀のヨーロッパではそれこそ都市伝説級の怪異だ。ルーツは世界各所にあり、古代ギリシアから始まり東ヨーロッパや中国等、呼び名は違えど様々な伝承が残っている。
 そんな多くの創作に登場する不死の怪物だと、目の前にいる青年は何一つ躊躇せずに明かす。しかし、ロベルティーネにとって、あの奇妙な傷口の治り方の理由としては不十分で納得出来る物では無かった。否、納得出来るも何も、吸血鬼の存在自体信じていないのだ。全ては目の前の情報のみが頼りで、架空の御伽噺には心底興味が無い。

「つまらない冗談だ。聞いて損した」
「つまらないだなんて酷いなぁ。俺は本当の事しか言ってないのに」
「十字架? 大蒜? 聖水? それとも銀の弾丸で撃ち抜かれたいの?」
「あはー、それで死ねたら楽だったよ。死ねないから、こうして君に頼んでいるんだよ」

 「それとね」と言って、メルヴィンは椅子から立ち上がり、いつまでも警戒を解かないロベルティーネの手、薔薇が握られている方の手を取った。相変わらず冷たさに、彼女は思わず身動ぎをする。

「呪いさえ解ければ、俺は人間に戻れるんだ。その時に殺してよ。全てを消し去ってくれるんでしょ? 『無音の死神』さん」
「……言ってくれるね」

 全てを吸い込む目が僅かに細められる。スタンドグラス越しの光でさえも、色素の薄い瞳を彩る事が叶わない。
 挑発。あの時の間抜けな青年の影は何処へやら。その表情は挑戦的で、愉快だと言わんばかり。この挑発に乗って良い物か、悪い物か。だが、「無音の死神」と言う絶対不可能な看板を引っ提げている以上、乗らないと言う手は始めから無い。そう、この依頼は端っから“断る”と言う選択肢が無い、出来ゲームなのだから。全てはあの瞬間、ロベルティーネが青年を殺し損ねた時から雌雄は決していたのだ。
 そこまで悟った所で、彼女は今まで培ってきた誇りと自尊心、築き上げた「無音の死神」の名に懸けて、言葉を続けた。

「良いよ、殺してあげる。貴方が今までしてきた経験、思い出、善し悪し関係無く、骨の髄まで消してあげるよ」

 己の為に消してあげる。自分が「無音の死神」である限り。自分に存在理由がある限り。他が為では無い、自分の為に消してあげよう。影も形も無くなるまで──
 死神の快諾に、鬼は花咲くが如くに笑った。殺害の契約。二人の間で交わされた契りの名である。

◆第II章「情報収集」 01→←├ 06



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十二月三十一日(プロフ) - づみさん» 有難う御座います。読んで頂き光栄です。更新頑張りますので、今後共宜しくお願いします。 (2018年3月3日 2時) (レス) id: 70aae954fa (このIDを非表示/違反報告)
づみ(プロフ) - お話がとても好きです、更新たのしみにしています。頑張ってください〜 (2018年3月2日 16時) (レス) id: 688586594f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:十二月三十一日 | 作者ホームページ:   
作成日時:2018年1月18日 21時

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