小さなお茶会 ページ9
それからしばらくして日も暮れかかる時間になると、綴さんの熱も落ち着いて、今は談話室のソファーで寛いでいる。
よかったよかった、と安堵のため息をつくと、先程帰ってきたばかりの誉さんがこちらを向いた。
「おや、Aくん。お疲れかね？」
「あっ、いえ、疲れたって言うか、綴さんが元気になってよかったなぁって思ったら気が抜けちゃって。あんまり動いてないのに、お恥ずかしい限りです…」
私がへらりと笑うと、誉さんは上品に微笑んだ。
「Aくんはいつも良く頑張ってくれているよ。たまには息抜きも必要だろう。…どうだね、今から小さなお茶会を開くというのは。ちょうどお茶請けに良さそうなタルトを貰ったのだよ」
「えへへ、ありがとうございます。…それじゃあお言葉に甘えようかな」
「うむ、そうしたまえ。場所は、そうだね…バルコニーがいいだろう。先に行っていておくれ」
「はい、わかりました」
私が頷くと、誉さんも満足気に頷いて、お茶の準備をしにキッチンへ向かった。
言われた通りにバルコニーに向かうと、涼やかな風が吹いていて、疲れていた気持ちが晴れやかになる気がした。
「あっ、一番星」
小さな瞬きを見つけて上を見上げれば、夜になろうとする空は綺麗なグラデーションになっている。
「綺麗だなぁ」
「おや、Aくんにも自然の魅せる芸術が分かるようだね」
ぽつりと零すと、いつの間に来たのか誉さんが紅茶とタルトの乗ったトレイを持って私の後ろに立っていた。
彼はバルコニーの小さなテーブルにそれらを並べると椅子を引いて、恭しく頭を下げる。
「お嬢様、どうぞこちらへ」
「えっ、いきなりどうしたんですか！？」
「働き者のAくんを甘やかす大人も、必要かと思ってね」
「ふふっ、ありがとうございます。それにしても、ほんとの執事さんみたいですね」
「ふふん、執事役で主演を務めた私に死角はないのだよ」
私が席に着くと、誉さんは私のカップに鮮やかな赤色の紅茶を注いだ。
初めて見るものだ。
「これは？」
「ローズヒップティーと言ってね。色が美しいのもさることながら、甘酸っぱい口当たりで甘いタルトに合うと思ったのだよ」
「へぇー…頂いても？」
「勿論」
一口含むと、確かに甘酸っぱい。
普通の紅茶よりも癖は強いけど、私は好きな味だ。
「美味しいです…！」
「それは何よりだよ」
甘いタルトと新しい紅茶は、張りすぎていた肩の力を優しく解していくみたいだった。
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涼風音欧(プロフ) - すすさん、コメントありがとうございます。そう言って貰えて嬉しいです！不定期ですがこれからもお付き合いください！ (2021年2月5日 9時) (
レス) id: 8feba5476c (このIDを非表示/違反報告)
すす(プロフ) - ほんとにこの作品好きです！更新頑張ってください！ (2021年2月4日 0時) (レス) id: 3c8d12b151 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：涼風音欧 | 作成日時：2021年1月25日 5時
