軍艦にて ページ9
『だから！海軍に話すようなことは何もないですよ！エースとは今朝知り合ったばかりだし、私は仕事の一環で来てるんだから』
あれから本当に軍艦まで連れてこられ、今は船室で事情の聴取を受けている。スモーカー直々の。
「その割には親しげだったな？火拳はお前のことを自分の女だとか抜かしていたが」
『そ、それは……私にもよく分からないけど……』
「分からねぇって顔じゃねぇだろ」
エースの発言を思い出して目を逸らしたが、スモーカーは私の顎をぐいっと掴んで無理やり目を合わせる。
「なぁ、おい」
『……っ』
探るような目で見つめられ、思わず睨みつける。
スモーカーが、はァ、と息をつくと、ふわりと紫煙が溢れた。
「まぁ良い。お前が一般人だとか宣うなら、これ以上海賊と関わらないように保護が必要だからな。暫くこの船でたしぎの手伝いでもしろ」
『ちょっ、営業妨害は困ります！でもきれいなお姉さんと一緒の仕事は嬉しいかもって思っちゃう自分がいる！』
エースには電伝虫を使って連絡が取れるし、今すぐ命の危機がある訳でもない。
1日くらい同行して、隙を見て逃げ出そう。
「間違っても、逃げ出すんじゃねぇぞ」
『エ、エスパー？』
ひと睨みされ、ポイッと船室から放り出される。
大部分の荷物も没収されてしまったし、私は仕方なくたしぎの元に向かった。
『たしぎさーん！』
「あっ、Aちゃん。事情の聴取は終わりましたか？」
『まぁ一応。スモーカーさんに、たしぎさんの手伝いをするよう言われたんですけど』
「それなら……こっちの書類をまとめ直して貰えますか？兵士ひとりひとりから上がってくる報告書なんですけど、書類作成が苦手な人が多くって。スモーカーさんに提出する前に、こちらで手直ししてるんです」
『書類仕事なら得意ですよ！任せてください！』
なんてったって口うるさい部長の下で毎回報告書を書いてきたんだからね、踏んできた場数が違うのよ。
それにしても、この量を1人で捌いているなんて、海軍将校の副官って大変すぎる。
こいつは記入欄から文字が飛び出してるし、こっちは逆にスカスカ。こいつに至っては絵描いてるし。
暫く書類を捲っていたが、ふと手が止まる。
『たしぎさん、これ……』
「何かありましたか？」
『この、ネフェルタリ・ビビって……』
「あぁ、数年前から行方不明になっている、この国の王女です」
ドクン、と胸が跳ねた。
……私は多分、この人を知っている。
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作者名：涼風音欧 | 作成日時：2022年10月8日 3時
