キナ臭い噂 ページ26
私がそう言えば、ビビの目付きが変わる。
先程までの怯えきった弱々しい瞳とは違う、決意に満ちた瞳だ。
「……っ、みんな、もう少しだけ我慢してて！必ず助けを読んでくるからっ！私は絶対にみんなを見捨てたりしない！」
「……！！おう！頼んだぞビビ！」
ビビは、外へ助けを呼びに行くことにしたようだ。
階段を駆け上がり、外に続く扉を開けて走っていく彼女は、もう迷いなんて捨てていた。
「……それにしても、珠代がダウリッヒ王国の王女だったなんてな。
革命が陰謀だったというのが本当なら、復権も可能じゃねぇのか。テメェ、こんな所で海賊の手先なんざやってていい身分じゃねぇだろう」
ビビの帰りを待つしかなくなった檻の中、スモーカーが私を見ながら言う。
『元王女、ですよ。王が変わった今、その称号はなんの意味もない。寧ろ暗君の娘なんて、国民からしたら仇みたいなものでしょう。全て丸く収まっている国に、今更波風立てたくないんですよ、私は。
それに、海賊の手先じゃなくて、一応使用人なんですってば。海軍にも手を貸してるじゃないですか！？』
私は溜息をつきながら、首を横に振る。
今更正当な後継者だなんだのと、担ぎあげられるつもりは毛頭ない。
私は今、幸せなのだ。
良い上司と気さくな同僚に恵まれ、海を自由に渡れるこの生活が、思いの外気に入っている。
「全て丸く収まっている……ねぇ。ダウリッヒ王国と言えば、最近キナ臭ぇ噂がたっているが……知らねぇのか」
『……はい？』
「海軍でも、上層部に加えて一部の現場だけで情報が止められてはいるが……ダウリッヒ王国の武器が一部、不法に流出し、それが海賊たちに流れてるって話だ。
……本当に全て、丸く収まっているとでも思うか？」
スモーカーはそう言って、葉巻に火をつけた。
『収まってないみたいな言い方ですね』
「さァな。国に未練があるなら、行って確かめることだ」
『未練なんて……』
「泣きそうな面で、何言ってやがる」
彼は私の顔に向かって紫煙を吹きかける。
『けほっけほっ』
「ほら、泣いてやがる」
『今のは煙のせいでしょ！？』
私が抗議すると、スモーカーはふっと薄く笑った。
「Aはどうすんだ？行くのか、おめーの国に」
『うーん……行きたい気持ちはあるけど。今はとにかくここを出て、それでビビを助けるのが先。アラバスタの実情を目の当たりにして、放ってはおけないし』
「……強いのね、A」
『友達だからね、ビビは』
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作者名：涼風音欧 | 作成日時：2022年10月8日 3時
