依頼人は災厄と共に ページ2
『仕事〜仕事〜正直めんどいし・ご・と〜！』
鼻歌を歌いながら海を渡っていくと、だんだん暑くなってくる。
日が昇ってきたというのもあるが、これは夏島に近づいている証でもある。
『もうそろそろかな。今回の島は近くて助かった……』
海上使用人派遣協会では、仕事に就くようになる前にある程度の航海術を仕込んでもらえるが、才能によってその出来はまちまちだ。
Aだって、一応及第点は貰えたが得意な訳でもない。短い航海で済むなら万々歳だ。
そんなことを考えながらボーッとしていると、突如強い風が吹いた。
『わぶっ！！』
そして顔面に突き当たる、どこからともなく飛んできたオレンジ色のカウボーイハット(？)。
『……？』
「悪ぃ悪ぃ、その帽子、俺ンだ」
声が聞こえると思って見渡せば、遠くから小さな船に乗った半裸の男が、すごいスピードでこちらに突っ込んで来るではないか！
『うわぁー！ぶつかるぶつかる！！』
「いやァ、悪ぃな。大丈夫か？そんな水浸しで」
『アンタのせいやろがい！！』
男の船はまるでドリフトするように、私の小舟の隣にピタリとつけた。
それによって激しく立った水飛沫が、全部私にかかったことは言うまでもないだろう。
ふざけてる？この人。
「ハハッ、それにしても助かったよ。アンタが帽子を拾ってくれて良かった」
『帽子は返すけどね……私これから仕事なんですけど！？どうするのさ、こんな溺れたみたいな格好で……』
「あー、ならお詫びに乾かしてやろうか。ほら、脱ぎな」
『は？お巡りさん呼ぶ……？』
「そいつァ困るな。ま、そのままでもいいが、あとで文句言うなよ？」
そう言うと、男は腕を構える。
そして、空気が変わった。
「……蛍火！！」
ポポポ、と音を立て、男の指先から出た光の粒が私の周りを舞う。
熱を帯びた光は幻想的で、思わず触れようとした瞬間。
ボゥッ！！
『ぎゃー！火じゃん！！燃え死ぬ！！』
「アッハッハッハッ、お前バカなのか？」
『火なら先に言えー！！』
お陰様でぐっしょり濡れていた服は乾いたが、その代償に船ごと燃えるところだった。
危なすぎる。誰だこんな男を海に野放しにしたヤローは。
『まじで、死ぬかと……』
「会ったばかりの奴を殺したりしねぇよ。いくら俺が海賊でも、な」
『えっ、お兄さん海賊！？……待てよ。海賊、火の能力って……！』
「白ひげ海賊団2番隊隊長、ポートガス・D・エース。お前の依頼人だな。よろしく、A」
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作者名：涼風音欧 | 作成日時：2022年10月8日 3時
