58場 救世主 ページ20
そう、そこに立っていたのは瀬名紅蓮だった。
Aと影夜の父に世話になったからと言って、時々様子を見てくれる警官。
今日はきちんと警官用の制服をかっちり着ていたので、空閑はあれだけテキトーに見えた脳内再生の瀬名の私服姿と見比べてみた。
……こうも違って見えるものなのか、と密かに空閑が脱力したのは言うまでもない。
「どうして此処に……？」
優芽が尋ねると、瀬名はニヤッとした。
「お前らの身辺警護は人手が足りなくて、俺も駆り出されたんだよ。じゃ、まあついでに寄って準備してる所を邪魔しようと思――」
「ナイスタイミングです瀬名さん！ 助けて下さい！」
「……お前、今俺の話聞いてたか？」
Aがセリフを全力で被せてきたので、瀬名が不機嫌そうにAに尋ねた。
「良いじゃないですか！ 父の忘れ形見である私達に少しくらい無料奉仕してくれたって！ 父に恩があるんでしょう？」
「………………お前のそういう所、俺は嫌いだぞA」
しばらく呆気に取られていた瀬名がポツリと呟いたが、次に再びニヤリと笑ってみせた。
「だがまあ確かに、今回くらいはお前達に貸しを作っとくのも悪くねぇな。見たトコ人数でも足りねぇのか？ 裏方のTシャツ着てる奴が少ねぇな」
「話が早くて助かります。諸事情あって、千秋のヘルプの半数が来てません」
「……無断欠席……いや、この場合ボイコットか」
「そんな感じです。裏方なので、舞台には出ないんですが……今日の演目は舞台装置の転換が多くて」
「そいつらの首根っこ引っ捕らえて引き摺ってくりゃいいのか？」
「いえ、そちらは担当教諭に頼もうかと。瀬名さんには裏方をお願いしたいんです」
そこで、裏方担当の少年の一人が声を上げた。
「七種、そりゃ幾ら何でも無茶だろ！ この人達にも仕事があって来てんだからさ」
「でも、その仕事を放ってあの馬鹿共を呼びに行かせる訳にもいかないじゃない？」
「……そりゃ……そうだけど」
顔をしかめる少年に瀬名が尋ねた。
「……裏方は、あと何人足りない？」
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作者名：月下 | 作成日時：2017年12月23日 22時
