49場 事情 ページ11
そこでどうやら搬送の準備が整ったらしく、救急車が静かに走り出した。
サイレンを鳴らさない所を見ると、命に別状はないようだ。
その事に安心したのも束の間――そこに2台の乗用車が現れた。
降りてきたのは、いずれも屈強そうな男達だった。
二人は直感した。私服ではあるが――あれは警官だ。より正確な表し方をするなら、刑事、だろうか。車は覆面パトカーなのだろう。
1台から二人ずつ、計4人の男が降りてくる。そのうち、3人はそのまま講堂へと入り、残りの1人は野次馬の方へとやって来た。
途端、蜘蛛の子を散らすように逃げ出す野次馬達。
けれど辰巳と申渡は、その場に留まり続けた。
「君達は、此処で何を?」
男が聞いた。その見た目に反し、物腰は柔らかい。
「救急車のサイレンが聞こえて……嫌な予感がしたので、救急車が止まっている此処まで走ってきました。倒れたのは誰ですか?」
「そうですか……。倒れたのは、交換特待生の少年です。命に別状はないそうですから、安心してクラスに戻りなさい」
辰巳の問いに男はそう答え、手で戻るよう促した。
「毒を盛られたというのは本当ですか?」
申渡の質問に、男はこう答えた。
「それを調べるのが我々の仕事です。さあ」
そこでチャイムが鳴る。まだ予鈴だが、確かにそろそろ戻らないとホームルームに遅れてしまう。
二人は渋々、教室へと戻った。
クラスにはやはり、A、影夜、優芽、鈴音の姿はなかった。
「ルイ、本当? 救急車が学校に停まってたって」
入るとすぐに、揚羽が駆け寄ってくる。
「ああ。……影夜先輩が倒れたらしい。救急車で運ばれたのは先輩だろう。三人が来ないのは、先輩に付き添っているからだと思う」
毒を盛られたかもしれないという件は伏せておいた。
いずれ知る事になるかもしれないが、今はまだ不確定だ。早いうちから不安にさせる必要はないと、辰巳は考えた。
誰かが呟く。
「先輩……大丈夫かな」
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作者名:月下 | 作成日時:2017年12月23日 22時