33場 頼み ページ37
「そもそもガキが二人で親睦会抜け出してきてんじゃねーよ」
「もー、放して下さいってばー!」
しかし瀬名は更に10秒程もAの頭をわしゃわしゃした後、ようやく彼女を解放した。
「さて、じゃあAは戻れ」
「え?」
「この空閑って奴に、俺は用がある」
「……何する気ですか?」
いきなり不安そうな顔をするAに、瀬名はニヤリと笑ってみせた。
「ガキは知らなくていい事だよ」
「……。空閑君……」
Aは申し訳なさそうに空閑を見たが、空閑は落ち着いた様子で頷いてみせた。
少なくともこの男は警官のようだし、何かヤバい事をしてはこないだろう。……多分。
「……。瀬名さん、空閑君に変な事しないで下さいよ!」
まだ不満そうな顔をしつつも、Aはそう言い残して建物の中に入っていった。
「あの小娘……俺を一体何だと思ってやがる」
瀬名は小さく毒づくと、空閑に向き直った。
「……さて、空閑愁、だったか? お前、あいつの事好きだろ?」
「……!」
思わず空閑は瀬名をばっと見上げた。直後、そんなバレバレの反応を返した事を悔やむがもう遅い。
そんな空閑を見て、瀬名は薄く笑った。
「ま、止めとけとは言わねーけどな。イイ奴だ、俺があと5年若けりゃ女として見てやったと思うぜ」
「……そんな事を言う為に、わざわざ俺を残したんですか?」
「いいや。お前に一つ、頼みがある」
瀬名は笑みを消すと、真っ直ぐに空閑を見た。
「よく見ておいてくれ。あいつの事と、そしてその兄を。……可哀想、なんてありふれた詞は使いたくねぇが――あの兄妹は、あの事故のせいで心の深い部分が脆くなっちまったからな」
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作者名:月下 | 作成日時:2017年9月30日 23時