17場 夢 ページ21
「……冗談でしょ?」
鈴音が顔を青ざめさせてそう囁く。
Aもそう言いたいのは山々だったが、優芽の態度が冗談ではない事を――少なくとも、優芽がそう思っている事を感じた。
「あたしだってこんな趣味の悪い冗談言わないよ!」
「……証拠は?」
Aが声を押し殺して訊くと、優芽は首を強く左右に振った。
「まさか! そんなの出て来たらそれこそ噂なんてレベルじゃ終わらなくなっちゃうよ!」
「でも優芽、貴女それが本当だって思ってるんでしょ?」
答えは暫く返らなかったが、やがて優芽は口を開いた。
いや――開こうとした。
「やあ皆、揃ってる?」
その瞬間、双葉がレッスンルームに入ってきた。今日の指導員は彼のようだ。
「……どうしたの? 三人でそんな顔して」
Aが咄嗟に答える。
「夢の話です。私が怖い夢を見たのでそれを喋ってたら、二人共本気で怖がっちゃって。……夢の中の話なんだから、現実に起こる訳ないのに」
その言葉に、優芽が合わせて話し出す。
「だ、だって本当に怖かったんですよ双葉さん! しかも私達、夢の話って今聞かされたし!」
「あはは、それは災難だったね〜。……もし本当に怖い事があったら俺に言うんだよ? 俺じゃなくても、魚住とかりっちゃんとか……学校の先生とか親御さんに相談してね」
双葉はにこやかに、そして安心させるように言った。
Aはそれを見て、直感的に悟った。彼は、自分達が話していたのが夢の話などではなかった事を見抜いている。
それでも彼がそれを問い質さなかったのは、三人の心情を慮ったからだろう。
「はい、ありがとうございます。そうします……必ず」
「うん、良い返事だね。じゃあ、練習を始めようか」
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作者名:月下 | 作成日時:2017年9月30日 23時