この続きは秘密ということで ページ8
「その子さ、俺の彼女」
虚ろな、まだ寝ているに近い時に聞こえた声は酷く私が求めていた人の声だった。その声に安心して寝ようとする束の間、寝かせない為に合わせられたか知らない目は、私の目を見つめてあやす様に言った。このお洒落な店に彼はとても似合っていて、彼の髪色に反射するかのようなミラーボールが回っていた。私の周りにいるのはセンラさんだけでなく志麻さん、志麻さんに抱きかかえられている私の友達、そこに知らないお酒のグラスと瓶が、何本かゴロゴロと床に散らばっていた。自分はこんなミラーボールがある店にいた記憶は無かったが、多分昼と夜でお店が変わるのだろう。クラブ的な派手な装飾に早変わりしていた。
なぜ、私は知らない人に腰を巻き付くようにして支えられているのだろう、頭の回転が遅い脳だ。頭がうまく働かない。机のグラスの中身が無い、これは誰が飲んだのか知らない。
「あれ、せんらさんだ」
自分が気の抜けた声を出して、焦点が安定しないことに気付いたら。私は喧嘩を思い出して彼と反対方向に目を向け背けた。無論そんなことをさせないのがセンラさんで、頑として向こうは私を見させようと、あえて何も言わないで、何を言わないで視線で訴えかけた。
「あのぉ」
自分のテリトリーにずかずかと踏み込んできた他人は、私を支えていた見た目は優しくなさそうな、声はねっとりしている、耳に気持ち悪さが残りそれでも私の腰を物欲しそうに触るおじさんだった。あまりにも突然だったことから動こうにも動けず、怒鳴ろうとした口さえ突然には何をできず言葉を言う事ができない。センラさんはそのまま立っている。
「この子、貰ってっても大丈夫です?」
ぺこぽこ頭をセンラさんに薄いお辞儀をしながら、裏で私の腰回りにぐるぐると指で円を描く。その感覚でどうにも力が出ず、目の前の喧嘩中の彼に涙目で協力を頼む。センラさんは笑っていた。
何も言わずに笑って、笑いながらおじさんに近寄り、何か耳元でぼそり言う。その言葉を聞き目を白黒させた他人は謝りながら必死で店を出た。汗の沢山出たおでこが痛々しい、気持ち悪いと言ってしまうのが本当にお似合いだ。出た時店のベルが鳴るのが他人の負けを証明したようで、訳が分からず苦笑いで媚びへつらう。
「…あ、はは。」
もう、笑って許してくれませんかね。まだ笑ってるセンラさんは私の首を捕まえた。…恐ろしい。…恐ろしい。
*
「…はい。では、」
「―――Aさん僕の家に泊まります」
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ヒロ(プロフ) - 消えた字、見つけた。好きです。頑張って下さい。 (2019年11月14日 23時) (レス) id: 7769e45292 (このIDを非表示/違反報告)
雨上がりのcrew(プロフ) - すごい。。。この作品私得←これからも更新頑張ってください!! (2019年7月7日 15時) (レス) id: 11f12a305b (このIDを非表示/違反報告)
とある暇人 - 文章が読みやすくて一気に読んできました←これからも更新頑張って下さい! (2019年1月15日 19時) (レス) id: 09ab6582bb (このIDを非表示/違反報告)
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