【HQ】ヘーゼル色の光・3【夜久衛輔】 (ページ39)

今日:6 hit、昨日:68 hit、合計:15,452 hit

＊33-3. ページ39

・

『A』
「っ、なぁに鉄君」

そう思っていた途端、鉄君に名前を呼ばれる。鉄君は衛輔と信君と同じように呼び捨てで呼ぶこともあるが、お嬢さんと呼んだりちゃん付けで呼んだりする時もある。どれも好きだけど、やはり呼び捨ての方が落ち着く。
だけど呼び捨てで呼んでくれる時は、真面目に話す時とか緊迫した状況下で呼ぶ時とか。声のトーンもいつもの余裕を帯びつつもいつでもからかえるトーンではなく、真面目なトーンだったから、少し息をのんだ。

『────────この前の合宿で倒れた経緯、粗方は聞いたけどさ。夜久は救急搬送の時に唯一付き添ってるから俺ら以外の奴より少し詳しく分かってんだろうけど。A自身の口から、倒れてしまった日の体調とか気持ちの持ち様とか、そういうの含めて全部、改めて俺らに話してくんない？』
「っ…。」

なんとなく、この通話の真髄が見えた気がする。
確かに合宿が終わってからも再度音駒の皆とこの3人には詫びの言葉を入れたが、ちゃんと詳細を話してはいなかった。本来はこちらから機会を設けるべきなのに、それを相手にさせてしまったという罪悪感に少しばかり苛まれていたところ、信君の優しい声が頭を撫でてくれるかのように聞こえた。

『同い年と言うのももちろんあるし、Aは俺らをしっかり支えてくれている貴重なマネージャーだから、今回のことはきちんと把握しておきたいんだ。』
『研磨達には言えねぇようなことも、俺ら同級生には言えるんじゃねぇかって思ってな。』
「…うん。こっちからちゃんと話すべきだったのに、わざわざ機会を設けてくれてありがとう。」
『いえいえそんな。謝らなくていいけど、俺らホンットに！今回の件は心配したからさ、マジで。』
『Aは無理するところがあるよなと俺達は前から思っていたけど、今回に限ってはこのまま終わらせられないよなってなったんだ。』
『だからこそ、覚えている範囲で把握しておきてぇって話になってな。A、話してくれるか？』

鉄君、信君、そして衛輔が次々に言葉をかけてくれる。どれだけ良いメンバーに恵まれたのかと何度思ったか分からない事実をまた再確認しながら、肯定の返事をした。

「ちゃんと、話すね。あの日のこと─────」

過ぎた合同合宿の5日目の夜。
衛輔(君)への想いを自覚してしまったあの日の記憶を思い出しながら、声を発した。