【HQ】ヘーゼル色の光・3【夜久衛輔】 (ページ26)

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あれから点滴をもう1つ打ってから、日付が過ぎるか過ぎないかくらいの時間に森然高校へ、母親の実家のタクシーで戻っている。
熱はあんなに上がっていたのにまるで嘘かのように元通りになったのに私も衛輔も直井コーチも皆驚いたが、早く回復するに越したことはない。

母親の実家であるタクシー会社は首都圏といくつかの県に支社を展開していて、森然高校がある埼玉にももちろんあったから、そこのタクシーを母親が既に呼んでいた。私を含めて、兄も父も、母親の家族だから乗車料金を取っていない。個人的には正直良いのかと思いながらも、何かあったらつい頼りがちである。

「──────親御さん、『早く帰るかどうかは、Aの判断に任せる。本当は早く帰ってきて少しでも早く身体を休めて欲しいけど、きっとこちらが言っても聞き入れない可能性もあるから』って言っていたぞ。」
「ありがとうございます、直井コーチ。」
「A、1度決めたら結構頑固だからな。ご両親もそれを分かって、Aに判断委ねてんだな。」
「頑固じゃなくて『こうしたい！』て思ったら大概の場合やってみないと落ち着かないって言って欲しいかな…。どうしよう、明日で帰れるのに、」

タクシーに揺られながら、暗い夜道に考えを投げるように視線を向ける。助手席に座っている直井コーチは私の呟きを聞いてからすぐにこちらを見てこう答えた。

「まぁ親御さんの気持ちも分かる。この合宿が終わって5日後には音駒だけでの合宿もあるから、それに備えて帰るのもありだぞ。」
「そうですよね…皆に迷惑散々かけたし……」
「………Aは、本当はどうしたいんだ」
「………」

衛輔の問いかけで既に出てしまっている結論が頭をチラつかせる。本当は自分がやりたいことなんて、聞かれなくても分かっている。

「…本当は、まだ居たい。あと1日だから、もうここまで来たら最後まで居たい。でもコーチや親が言うこともそうだと思うし、早く熱が下がって回復したとは言え、マネージャーの仕事を全てこなせるかと言われたらそうでもない。マネ業出来ない私が、皆の傍にいる意味なんてあるのかな、なんて思ってるから、迷ってる」

すると直井コーチは複雑そうな表情を浮かべていたが、衛輔はなんだと言わんばかりに頭の後ろで両手のひらを組んだ。

「なら簡単なことじゃね？今のAが出来ることだけやればいい。後は俺らがやる。」
「え、？でも」