37話 異形の種 ページ40
「………………この魔力は…」
アクアとレイは弓と剣を向ける。
その先にいるのは異形の種。黒い帯にうねうねと包まれた人型の物体だ。
「ブウェルガ………なのか？」
ユーカリは杖を両手で抱え、怖気づくように後ずさりした。
「殺気を感じる…………」
同じくアルも身構える。臨戦態勢以外の何物でもない。
その『闇色の繭』はゆらゆらと揺らめきながら口だと思われる器官を開けた。
「あ ぁ あ」
「時ノ 変ゎり 目」
「ウツるる る時ィ イ」
「この ホシ 終 わル」
ブウェルガの声。だがところどころ掠れていて、不気味で仕方が無い。
だがしかし感じ取れるのは殺気の他に、恍惚すら比喩に含まれるような語句のせいでまるで誰かに操られているようにしか見えなかった。
「ブウェルガ…君は一体どうしたんだ…？」
アクアは目を丸くしながらも弦を張る指の力を抜かない。
もとい、【抜けない】のだ。
それは他の少年少女も同じ。
何故ならいつ殺されてもおかしくない状況だからである。
多くの闇は突如として空を切り裂いた。
狭い廊下の中、一番近くにいたレイを襲う。彼は剣を払い退けるが帯のような闇は瞬く間に全員に向いて一直線に走っていく。
アクアは弓を一つ撃った後に弩を握り締め、首を切り落としにかかる帯を弾いた。次々と襲いかかる闇はアクアに集中していった。
「こういうッ…！時はッ…！ミクオが…ッ！担当だろ…ッ！！」
文句を言いつつも俊敏な動きで味方を狙う脅威を払いのける。いつも遠距離の後方支援に回るアクアも弩を持てばオールラウンダーと変貌するのだ。
「俺も手伝う！」
ユーカリも植物魔法で相手の動きを封じにかかるが、質量を無視するようにその物質は次々と湧いてくる。それどころかまるで倍にして返されたような強い勢いで弾かれてしまう。
「…これは…勝てない」
アルは呟く。攻撃をするとより強い勢いで跳ね返ってくる特殊な物質を見て考えた率直な意見だった。
「ちょっとこれは…きついね」
「撤退したとして戻る道は？」
「あるのかな…」
不安になっていると闇色の繭は後ろを振り向いたかと思うと、全ての帯をしまい道の奥へ逃げていった。真っ暗になっている為もう姿は見えない。
「はぁっ…はぁっ…逃げた…？」
こちらの体力も限界に等しかった。
「(でも…おかしいですね)」
レイは廊下の奥を見やりながらふと不穏なリズムを感じた。
「(このまま僕達を始末する為にやっていたのなら…絶対に勝てていた筈なのにどうして)」
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作者名：ミミック | 作者ホームページ：https://twitter.com/neidangel
作成日時：2016年8月16日 20時
