【オリ】Neid Angel「第二章」暴食神・グラトニー (ページ35)

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32話　月夜の下ページ35

「使える命…か」
キチは首にかかるループタイに手を当てる。
「俺は神を守る者だった」
ミクオは突然の言葉に首を傾げた｡
「細かく言えば、家系がそうだったというべきかな。」
「ふーん。神官職って事かい？それなら家名も有名だと思うけど。君の名前ってキチってことしか知らないんだよね。」

辺りは何故か瓦礫の粒子が止まっていたり上がっていったり。とてもじゃないが普通ではないこの世界でなんて冷静に話をしているのだろうか。

「俺のフルネームは知ってるか？」
「うーん…」
A・ボッタ・キチ。王国書記の役割の他にはそれしか知らない。それ以上でもそれ以下でもないのだ。

「Aって？何格好良く省略とかしちゃってるの？」
「下の名前しか名乗らないお前よりはマシだろ……」
それは当たり前だ。諜報もとい潜入も兼ねている。最終的にそれらをぶち壊すような事が目的だが、ミクオの場合は上の名を晒す事により【弱点】が露呈してしまう。

それを考えているうちに、本能的に『A』の謎が分かってしまった。
理解できてしまったのだ。
「………………なるほどね」
「なんだよ急に。突然悟りを開かれても困るんだが。聞くときは自分からだろ？」
腹が立つから言ってやろうと思う。

「お前から聞かなくてもいい。『アノイウシホ・ボッタ・キチ』だろ？」

一陣の風が吹く。
自分の身を守る為、今の今まで隠していた秘密が全て明らかになる瞬間。
稲妻のような衝撃が身体に迸ったところで目の前が月夜でいっぱいになる。

それは本当に風だったのだ。
「ふぅん、お兄ちゃんもどっちか分からない水色の『神の子』と同じ苗字だったって事？」
鮮やかなステンドグラス、絵画、調度品は大きな歯型に消えた｡まるで空間ごと無くなったように。月に照らされて小さな少女の目は紅く光っていた。