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「そうだ、京都行こう、
みたいなノリで言ってるよね」
慎「ノリじゃないから」
「…」
慎「本気で、行こう」
真っ直ぐ私の目を見てそう言う彼からは、冗談という言葉で片付けられない何かを感じた
慎「ごめん、知ってるんだ、俺」
「何を…?」
慎「壱馬さんから聞いた。転勤が多くて、なかなか友達が出来なかった事。…お父さんが亡くなった事。
…お母さんの声が、出なくなったこと」
「…もう、お喋りだなぁ、壱馬」
壱馬が誰にでも口軽く話すような人じゃないことは、昔からよく知ってる
きっと彼にも何か考えがあったはず
だけど、自分の知らない所で、慎に過去を全て知られたようなそんな感覚で、遠くを見ながら苦笑いする事しか出来ない
慎「A…」
名前を呼ばれて、ゆっくりと振り返ると、切なそうな顔で私の目をまた真っ直ぐに見つめた
慎「俺に全部教えてよ…」
今まで誰にも話したこと無かったけど
慎「教えて...。な?」
誰にも打ち明けられなかった気持ちも全部、慎になら言える気がする
小さく頷くと、私の記憶はあの頃に遡る...
____
その時は、中学一年生の冬、
何の足音も聞こえないくらい、急に訪れた
「お母さん、ただいま!
…お母さん?」
ぱくぱくと口を動かしているお母さんは、喉を手で押さえて苦しそうにしていて
どうする事も出来ない幼かった私は、直ぐに叔母さんに電話すると、程なくして叔母さんは家に飛んで来て、お母さんを病院に連れて行った
ー失声症
ある時を境に、突然声を失ってしまう病気
叔母「Aちゃん…辛かったね」
私の肩を抱いて涙を流している叔母さんを見ても、私の中に渦巻く感情はめちゃくちゃで、悲しい、辛い、そういう思いは一つも出てこなくて
叔母「一緒に暮らそう?叔母さんと、叔父さんと、お母さんと、四人で」
そう言われても、頷くだけで何とも思わなくて
全てをしっかりと理解したのは高校一年生の春
受験を終えて、お母さんの事を喜ばせたい一心で、毎日毎日勉強して、学年で高い順位をキープして、テスト用紙を持って帰ってはお母さんに見せた
「お母さん、今日もいい点数取ったよ!
凄いでしょ〜!」
でも、お母さんはニコニコ笑って頷くだけで、私もずっと笑顔を絶やさず、お母さんの前では絶対に泣かなかった
お父さんが居なくても私が居るよ。
いつか声が出た時に、そう伝えるつもりだったんだ
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蘭(プロフ) - noahさん» noahさん、ありがとうございます!そう言って頂けてとても嬉しいです!これからも楽しみにしていてくださいね^ ^ (2018年9月10日 1時) (レス) id: 9208e0cc5d (このIDを非表示/違反報告)
noah(プロフ) - 更新たのしみにいています!いつも胸きゅんをありがとうごさいます!! (2018年9月9日 23時) (レス) id: 45dd6423d7 (このIDを非表示/違反報告)
蘭(プロフ) - nagiさん» nagiさん、ありがとうございます!有り難すぎるお言葉を頂けて、私は幸せです泣 素敵な慎を堪能して頂けるように、続編も頑張りますね!楽しみにしていて下さい! (2018年9月9日 23時) (レス) id: 9208e0cc5d (このIDを非表示/違反報告)
蘭(プロフ) - ゆうなさん» ゆうなさん、ありがとうございます!きゅんきゅんして頂けて慎も嬉しそうです!笑笑 毎日チェックして貰えてるなんて…嬉しすぎます泣 これからも楽しみにしていて下さいね! (2018年9月9日 23時) (レス) id: 9208e0cc5d (このIDを非表示/違反報告)
nagi(プロフ) - 毎日更新楽しみにしてます!慎くんにもキュンキュンしながら読ませてもらってます!お話書くのめちゃくちゃお上手で…見習いたいです。 (2018年9月9日 20時) (レス) id: 7ff8abb7e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蘭 | 作成日時:2018年8月8日 20時