何度でも足りないなんて事ないから ページ47
私はやっと着いた自宅の扉を、大きな溜息と共に開けた。
靴を脱いだ時、タイミングを見計らった様に電話の音がなり、慌てて駆け出す。
受話器をとって聞こえてきた声は、
「もしもし、藤原ですけれど…」
塔子さんの声だった。
「友達の家に泊まるって言ったきりで…」
「え、貴志君が!?」
電話口から聞こえてきたその言葉に、僅かな驚きと予想していたけれど、して欲しくはなかった行動に、思わず声が出た。
迷惑をかけたくない気持ちは察するが、まさか野宿でもするつもりなのだろうか。するだろうな。貴志君なら…
「連絡先を聞いたんだけど、貴志君ったらすぐ電話を切っちゃったのよ…」
「あ、あぁ、ごめんなさい。実は、私の家に数人でお泊まり会をやっていて、てっきり伝えているものだとばかり…」
「あら、そうなの?…良かった、Aちゃんの所だったのね。」
心底安心した様な塔子さんの声音に、嘘を吐くのが心苦しく思えるが、貴志君の気持ちもわかる。何も知らない人を巻き込みたくないと思うし、きっと私だって同じ行動をとる。それは大切だからだ。
それでもやっぱり、間違っているのだろうな。
「ええ、申し訳ありません。大人が居ない家に保護者の許可なしに泊めるのは、私も軽率でした。」
「いいの、いいのよ。楽しんでいるならそれで。でも、少し心配だったのよ。初めて出来た息子ですもの。」
「…そうですね。」
出来なくはない。でも、変に意識してしまうとどうにも上手くいかない。
「貴志君は、とても良いご両親をお持ちだと思います。」
そうじゃなくて、そうじゃなくって……もっとこう、上手く言えないけれど、柔らかくて暖かい彼らの関係をあらわす様な、そんな言葉が見つけられなくてもどかしい。
「ありがとう。」
けれど、柔らかく返されたその言葉は電話越しでも私の思いを汲み取ってくれた様に思えた。
私の様な力を持っていなくても、私の思いを感じとってくれた。それは彼女が誰かに優しいからなのか、それとも母親だからか…
なんとなく、久しぶりに母に会いたくなった。
その前に、貴志君を探さなくては。見つけたらしっかり叱って貰おう。そして、愛されている事を知って欲しい。
何度だって。
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89*(プロフ) - ぱららさん» ぱらら様 コメントありがとうございます。素敵だと言ってもらえて、とても嬉しく思います。更新速度が遅く、お待たせしてしまうのが心苦しくもありますが、年明けからは多少なり余裕が出来ますので、お待ち頂ければ幸いです。今後とも宜しくお願い致します。 (2020年12月21日 22時) (レス) id: 514fce46fd (このIDを非表示/違反報告)
ぱらら(プロフ) - とてもお上手な作品です!私は未熟者なのでとても素敵だなぁと思います!更新とか頑張って下さい!楽しみにしてます! (2020年12月19日 18時) (レス) id: 528bfd8f20 (このIDを非表示/違反報告)
89*(プロフ) - 日向葵さん» 日向葵様 お返事が遅くなってしまい申し訳ありません。コメントありがとうございます。来月辺りから更新頻度を上げられればと考えておりますので、これからもよろしくお願い致します。 (2019年7月6日 16時) (レス) id: a2eb60a991 (このIDを非表示/違反報告)
日向葵 - とても素敵な作品です!!続きが気になります!! (2019年6月30日 16時) (レス) id: ea495e3633 (このIDを非表示/違反報告)
89*(プロフ) - 望月凛さん» 望月凛様 色まで塗って頂けるとは……補足は特にありません。それくらい作者のイメージ通りです。素晴らしいイラストをありがとうございます。 (2019年2月1日 21時) (レス) id: fe7ba8f509 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:89* | 作成日時:2019年1月10日 23時