君の笑顔が好きだった4【夏目友人帳】

絆されてしまえばもう… ページ16

『申し訳ありません……』

震えが混じったその声に、なんとなく何があったのかわかったような気がする。

「体調良くないんだね、アサギ。」

アサギの体調が、憑依している貴志君に反映されたんだろう。
仕方ないと言えば、仕方ない事だ。

『申し訳ありません。』

「謝らなくてもいいよ。それより……あーいや、わすれて。ごめん。」

そんな身体で本当に弾けるのか、なんて聞いたところで彼女は無理をしてでも弾くだろう。もう一度弾かせてやりたいと、奔走している彼の為に彼女は弾くだろう。
たとえそれが、妖力(いのち)を削る様な行為だとしても…

本当はすぐにでも、貴志君から離れて欲しい。アサギの願いを叶えたいと思っているけれど、その為に貴志君が苦しい思いをするなんて嫌だ。
昨日までずっとそう思っていた。
材料探しを必死に手伝ったのだって、それだけが理由だった。でも、私はアサギの気持ちを知ってしまって、メリーさん……アカガネの想いに気が付いてしまった。

お互いが抱く優しい想いに触れて、私は絆されてしまった。

私は、無理に貴志君の体からアサギを引き剥がす事が出来る。
でもそれを実行する事は出来ない。

それをやってしまえば、間違いなくアサギは消えてしまう。

貴志君は大切だ。彼の為に自分を捨てる事は出来たとしても、ここまで心を開いてしまった者を犠牲にすることは、私には出来ない。

もう余計な事は考えないで、流れに身を任せよう。
きっと上手くいく。アカガネは上手くやってくれる。

私はそっと身体を倒し、睡魔に身を委ねた。

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