紙一重の存在 ページ2
父は涙を零していた。
悪かった。ずっとそれが言いたくて、もう何年も経ってしまったと、苦い顔をした彼は立派な父親の顔をしていた。
「夏目君と言ったな、娘が世話になっている。」
「いえ、こちらこそ…」
「情けない所を見せてしまったな。」
そう言って困った様に父は笑った。
優しい笑みだった。
私達は今、私の家のリビングで言葉を交わしあっている。
私と貴志君と父の3人で1つの机を囲むのは、なんだか変な感じだ。
離れていた時間を埋める様に、ずっと他愛ない話をしていたい気持ちもあるが、私には父に聞かなければならない事があった。
「ねぇ、お父さん。お父さんって何者なの?」
なんて突拍子もない質問に、父は驚くでもなく目を伏せていた。
「難しいな。俺が人間だという事は断言出来る。だが…」
「だが?」
濁された言葉の続きに興味が増す。貴志君も私と同じ様で、少しそわそわしていた。
「俺達は一部の者から、半端者と呼ばれている。」
その言葉には聞き覚えがある。
「柊に半端者って呼ばれた事がある。一体どういう事なの?」
「そんな事があったのか?」
驚きの声を零す貴志君に首を縦に振り、肯定を示しつつ父に続きを促した。
「妖者にとても近い人間の事をそう呼ぶ者がいる。大昔に俺達の祖先が妖者と盟約を結んで、ある特異な力を得たらしい。」
「その力って?」
思い当たる事がありすぎてどの力の事なのか、または全ての事なのか……
「一言で表すのは難しいな。神にも値する力ってとこだな。」
「神に?妖ではなく?」
疑問を零したのは貴志君だ。私は想像以上にややこしそうな父や自分の正体に、言葉が出てこなかった。
「神と妖はよく似ていると思わないか?普通の人には見えず、超常現象を起こす力がある。」
確かに似ているかもしれない。
現に、祠の神として信仰されていた露神は妖としてというよりも、神として最期を迎えたのだと思う。
神は望みから生まれるという。望まれなくなればその命を失う。
露神の場合は、最後の信仰者と消える事を望んでいた様にも思うが、信仰が薄れると共に力を失っていく様は、神となんら変わりなかったと思う。
「妖と神の違いは力の大きさだけだと思っている。今は血が薄れた影響で大した力はないが、当初は莫大な力を得たと聞いた事がある。」
妖と結んだ盟約が神の力を呼び寄せた、か……
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89*(プロフ) - ぱららさん» ぱらら様 コメントありがとうございます。素敵だと言ってもらえて、とても嬉しく思います。更新速度が遅く、お待たせしてしまうのが心苦しくもありますが、年明けからは多少なり余裕が出来ますので、お待ち頂ければ幸いです。今後とも宜しくお願い致します。 (2020年12月21日 22時) (レス) id: 514fce46fd (このIDを非表示/違反報告)
ぱらら(プロフ) - とてもお上手な作品です!私は未熟者なのでとても素敵だなぁと思います!更新とか頑張って下さい!楽しみにしてます! (2020年12月19日 18時) (レス) id: 528bfd8f20 (このIDを非表示/違反報告)
89*(プロフ) - 日向葵さん» 日向葵様 お返事が遅くなってしまい申し訳ありません。コメントありがとうございます。来月辺りから更新頻度を上げられればと考えておりますので、これからもよろしくお願い致します。 (2019年7月6日 16時) (レス) id: a2eb60a991 (このIDを非表示/違反報告)
日向葵 - とても素敵な作品です!!続きが気になります!! (2019年6月30日 16時) (レス) id: ea495e3633 (このIDを非表示/違反報告)
89*(プロフ) - 望月凛さん» 望月凛様 色まで塗って頂けるとは……補足は特にありません。それくらい作者のイメージ通りです。素晴らしいイラストをありがとうございます。 (2019年2月1日 21時) (レス) id: fe7ba8f509 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:89* | 作成日時:2019年1月10日 23時