君の笑顔が好きだった4【夏目友人帳】

あのね、お父さん ページ1

私の父親は暴力をふるう人だった。

殴っている所を何度も見たし、殴られた事もある。その頃は母を救いたくて、力のない自分を情けなく思った。
父を酷い目で睨みつけた事もあった。

それでも不思議と恨む事は出来なくて、近くにいると何故か居心地良く感じてしまう事が多くあった。

今じゃそんな気持ちは微塵もなくて、もう一度だけでも良いから、会って話がしたかった。

遂にその機会が巡ってきて、目の前にいる父をチラチラと見てしまう。

まだ話してすらいないのに、今一緒に歩いているのに、またこうして歩きたいと思ってしまうのは、やはり父親だからだろうか？

貴志君と出かけた日の帰りに、父と出会えたのは奇跡の様な気がする。

この町には奇跡が溢れている。

貴志君と再会して、父と再会して…
名取さんや、私を想ってくれた妖とも会えて…

色々な出逢いがあって、別れもあって…
怖い事もあったけれど、それを遥かに上回る優しさに触れて、心が温かくなった。

この町に来てからの事を、父に沢山知ってもらいたい。もし、私の予想通り父が見える人だったなら、妖の友人の事を話したい。

私が何者か聞くのは怖いけれど、父が私の見る世界を少しでも共感してくれたなら嬉しい。

まずは離れてしまった距離を、埋める事から始めよう。



私は父の目を見て、ゆっくりと話を切り出す。

「あのね、」

あのね、お父さん。
私、お父さんの事恨んでなんかいないんだよ。
だって、たった1人だけのお父さんだもの。

本当は優しい人って知っているから、嫌いになったりしないんだよ。

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