ｰ ページ8
。
だって、俺が俺じゃなくなりそうな夜に、いつも傍に居てくれたのは結局Aくんだったから。猫被んない俺も受け入れてくれんなら、そうならない方が、好きにならない方がどうかしてるやろ。向こうはなんの気もない優しさだとしてもさ、まんまと絡め取られてしまうよ、馬鹿やからね俺は。
でも好きになるきっかけなんてそんなもんの積み重ねなんじゃないの。
「ひーめ、今日も来てくれたんだ？ありがとね、あなたのためのミナトで〜す」
好きな人と過ごす為に、好きじゃない女に愛と愛想振り撒いて何してんだろうなと思わんでもない。本当に好きな人の前で、女を口説くような真似をしている。
これが所謂ストレート同士の恋愛だったらどんだけ楽だったかと何度も考えた。アプローチをかけるのも告白すんのも、全部そう。こうしたら意識してもらえるでしょだとかこういうの好きそうだとか、少なくとも今みたいに身動きが取れない状況にはならない。
俺とAくんは同性だから、俺が誰と距離が近かろうが近いのやだってもやもやしてくれるわけないもんね。俺が色んな人に愛を振りまいてんの近いとこで見ててなんとも思わないんだもんな。思うわけないって、そんなの分かってる。ただ、思われたかったってだけ。そうだったらよかったのに。.....そうであってくれと願うことくらい許して欲しいよ。
俺が好きなのは、俺のために着飾ってくれる子でもお金を使ってくれる子でもなくて。他でもないAくんなんだって。言葉にして伝えることもできない。
ナンバーワンっつってもこのザマよ、情けなくて笑えもしない。
「……不破さん今日も飲み過ぎ、頑張るの分かるけどまた肝臓お釈迦なっても知らねーからな」
最近流石に潰れる頻度高すぎない？そう言いながら水の入ったグラスを俺に差し出したあと、その手が俺の背中を摩った。
手がでかいって周りによく言われる俺なんかよりもっとでかくてその指が存外節くれだっていることも、知っている。自分より冷たいその質感も。いつも欲してやまないものだから。
君とした約束に生かされている。
だから、なんかもう俺の肝臓とか最早どうでもええよ。それくらい分かってくれてもいいんじゃないすか、とか、だめだね。
あの約束の重さは同じじゃないんだから、分かってもらえるはずもないのに。
。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 459人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：南湖 | 作成日時：2023年3月15日 20時
