after ｰ 僕のための林檎があまい ページ38
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｢湊さん、ごめん｣
Aくんのせいじゃない、それは間違いなくて。君に落ち度がないのにどうしても考え込んでしまう俺が悪いから、謝らないで欲しい。欠員が出て代打としてAくんを出すのはいかがなものか。そりゃ前回はめちゃくちゃ助かったし、ホストデビューすればなんて言い出す客も居たくらいで。
だけどさあ、あんまいい気はしないというか、できないよ。俺が言うのもあれやけど。
「嫌だって顔してますね？｣
「まあ穏やかではねーよ｣
「しゃーなしか｣
「しゃーなしやな｣
「はは、ちゃんと気を付けるよ｣
「ガード固めでね｣
「分かってる｣
ベタベタ触られるのを良しとする人ではないだろうが、それはそれとして気分が良くないから釘を刺したのに。嬉しそうな顔をするよなあ、縛られてる自覚ないんじゃないの。こんなん最早束縛なのに、当たり前みたいに受け入れて。それに喜びを感じている俺もさあ、大概にしとけ。
「ネクタイこれにしなよ｣
「俺があげたやつじゃん｣
「うん、ガード固くしろよっていう戒め｣
「信用ないね？｣
「心配性やからな俺｣
「……まあ安心要素になるならいいけどさ｣
誕生日にもらったネクタイは俺にとってお守りみたいなもんで。牽制のひとつにでもなればなと思ってるあたり余裕もないな、ちゃんとガキ。まあ、でもこういうのは譲れないもんでしょ。
近付いてきたAくんの首にネクタイをかける。淡い紫にネイビーのストライプが入ったそれが、君の懐にあるのは変な感じもするけど。
似合ってんね、良い男だ。
「ナンバーワンに言われると調子乗りそう｣
「調子には乗んな｣
「嫉妬しちゃうもんな｣
「悪いか｣
「悪くないね、嬉しいよ｣
態度で分かるものを敢えて言葉にして、互いの擦り合わせをする。そうやって俺の不安や心配を上手に潰してくれるから、ずるいよな。付き合いが長くなっていってもそこが変わらないの、結構凄いことなんだって自覚もないだろうし。
どう見てもかっこいいのに、可愛く笑いやがって。
いつも使っている香水を指先に付けて、よく見えるようになった耳をなぞった。ヘアセットの弊害で無防備になったそこには穴がいくつもあいている。その数を知ってるのは俺だけで良いのに、なんて。
「え、なしたの急に｣
「ただの虫除け｣
俺のネクタイして俺の香りを纏ってへらへら笑いながら相手をあしらうであろう君を想像して、悦に入るような奴なんだよ俺は。
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作者名：南湖 | 作成日時：2023年3月15日 20時
