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シャワーから戻ったその姿はなぜかいつもより幼く見えた。別に初めて見るもんでもないし、特別何かが変わったわけでもないのに、今日はどこかあどけない。雰囲気が丸いというか、子供みたいな顔してんね、なんて俺より若いんだから当たり前だけども。
今日は俺が全部やる。髪を乾かすとか、食器片すのとかそういうの全部。そう言うと、申し訳なさそうな顔をしながら、それでもちゃんと俺の好意を受け取った。伸ばした手を受け入れてもらえるのは、嬉しい。この人になら任せてもいいっていう手放しの信頼みたいな、そういうのを勝ち取れたんだなって実感できるから。
「みなとさんに頭触られるとねむくなる」
「初知りやなそれは」
「……ドライヤーってのもあるけど、おちつくからかな」
「Aくん今眠そうだもんね」
「ちょっと」
自分と違って癖のない髪を梳かしながら熱を当てる。そうしているうちに、こっくりこっくりとゆるやかに船を漕ぎ始めて、声もまるみを帯びていく。柔らかいAくんの声は無防備で、いつまで経っても特別感があって、良い。
「んはは、寝ちゃう？」
「めし、」
「起きてから食べればいーよ、ふたりとも休みじゃん」
「んﾞーー」
「ね、ほらベット行って寝ようよ」
「、みなとさんも？」
「うん、一緒に寝るから」
念の為とか考えて天津飯にラップ被せてきたの、正解だったな。真夏って訳でもないし半日くらい平気だと思いたい、さすがに。朝から天津飯は流石に重いかな、とか思わなくはないけど。まあ、俺らどうせ起きるの昼やしな。なんだっけ、ほら、ブランチってやつにでもすれば。
出来たてが一番美味いのは知ってるけどさあ、それも結局こんな状態の好きな人には勝てんのよ。
どうしたって可愛いからな、こんなのは。好きな人ってだけでも可愛いのに、こんなにふにゃふにゃされたらもうたまらんしょ。
「ハイハイ行きますよ〜」
「……て、」
「…あは、いーよ。繋いでてあげる」
手、と言われて差し出されたそれを握るとAくんが赤ちゃんみたいにきゅっと、俺の指を握り返した。なんやっけ、把握反射みたいなそんなやつ。今なら母性とか湧きそうなんだが、ほんと全然湧く。
その場で寝てしまいそうな勢いのAくんの手を引いて、寝室に向かう。とてとてと鳥の雛みたいに俺の後ろを着いてくるのが可笑しくて思わず笑ってしまったけど、きっと気付いてもないんだろうな。
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作者名：南湖 | 作成日時：2023年3月15日 20時
