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「いてえ、」
「……Aくんがやめろって言っても止まらんからやん」
「箍が外れたっていうかさあ……すきだなーってなったら止まれなかったんだよ」
「そういうこと言えば俺が何でもいいよって言うと思ってるっしょ」
「わりと」
「耐性ついてきたからなさすがに」
「えーまじか、残念だ」
逆にAくんは俺に弱くなってんじゃないのとからかうつもりで言えば、考えたような素振りを見せたあと真面目な顔でそうかもなんて返してくる。この人のこういう素直さとか、潔さみたいな、そういうのに結局まだ俺は弱くて。負けっぱなしは癪だから本当はまだ全然な耐性だって誇張するけどそんくらいは許されるはずだ。
「んー……先シャワー浴びてくる。眠気覚ましにもなるだろうし」
「りょーかい、飯準備しとく」
「ありがと、不破シェフ今日はなんですか」
「Aくんのすきな天津飯」
「それは流石に勝ち」
シャワーを浴びに行くAくんの背中を見送って、そのままキッチンへ向かう。
「…好きだな」
ああやって大袈裟に喜んでくれるところ。好きでもなければ嫌いでもない、何ならそんなに食べたことがない。Aくんが言うにはそれくらいのもんだった天津飯。それをさ、名前を出しただけで喜ばれるくらいに刷り込んだのが俺って事実がデカいわけよ。
誰かのために料理をするなんて考えてこなかったから尚更ね。俺が作ったものを美味しいって言ってもらえるの、いいな。 もはや胃袋掴んだと言っても過言じゃない。本人に言ったらめちゃめちゃ笑われたが、わりとそう思ってるとこあるぞガチで。逆を言えば俺もAくんに胃袋を掴まれてしまってるんだけど。仕事から帰って用意されてた味噌汁が死ぬほど美味いだとか、休みだからってふたりでできあいのもので作ったパスタが成功しただとか。俺の糖質制限やら脂質制限を考えて作ってくれる飯、とかさ。まあ、胃袋云々っていうか、単純に一緒に食卓を囲めることに嬉しさを感じてるのかもしれんが。
だってさAくんとならコンビニの飯でも何でも美味いよ。仕事終わり空腹に耐えきれなくなってふたりで車ん中で食うおにぎりも俺は好きだからな。結局何を食うかというよりは誰と食べるか、相手ありきのそれで。そういう風な思考に陥ってしまうあたり、躾られてるなと思う。
お互いの考えてることだったり癖だったり、そういうのが手に取るように分かるようになったらさ。もう、骨の髄まで染まったも同然だった。
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作者名：南湖 | 作成日時：2023年3月15日 20時
