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とくん、とくん、と。普段より恐らくはやいであろうそれは紛うことなき目の前の人、Aくんの音で。
自分と同じくらいには暴れているそれが嬉しかったから、俺はそのままAくんの胸に顔を埋めた。顔にも態度にも出にくいらしい彼の気持ちが、分かりやすく透けている。ずっと聴いてたいくらいしあわせな音だと思った。
「さっきからうるさくて。んは、不破さん気付いてなかったっしょ」
「…気付かなかった、っすねぇ」
「好きな人に好きって言われたんだから。らしくもなく舞い上がってるよ｣
結構ふわふわしてる、そう見えないかもしれないけど、なんて俺の髪を優しく撫でながら笑った。言いたいことは色々あるけど、笑いを含んだ声があんまりにも幸せそうだからその言葉信じてあげようかな、とか。
ふと見上げたタイミングでAくんと確かに視線が絡んで、ごくりと喉が鳴った。そんなん、期待しない方がおかしいじゃん。そのままどちらからともなく顔が近付いて、自然と目を瞑る。三回目は上出来じゃないの、どちらかが一方的とかそういうんじゃなくて。
ふたりともしたいから自然に、って多分一番理想的なやつ。
やんわりと触れた唇からAくんの熱が伝わる。確かめるように、安心させるように舐められて、くすぐったい気持ちになったから俺も同じようにやり返した。短くて軽いキスひとつでこんなに幸せになれるのかと思うくらいの多幸感に包まれて全身がふわふわする。
気持ち良く酔いが回った時の、酩酊感。それが心地いい。気が付くと頬に添えられていた掌に擦り寄れば、ちうと可愛い音を立てて唇を甘く吸われた。
「ん、ん…は ぁAく、」
「良い子っすねえ、…好きだよ不破さん」
薄目を開けば、どろどろに溶けた琥珀色が優しく俺を見つめている。目を瞑ってた俺が恥ずかしいやつ、やめてくれ。
あとそういう顔すんならさ、せめて俺が見てる時にして欲しい。
もう一回、ね、キス、きすしよ。
甘えたような声で強請られて……何か変に火を付けてしまった感じかも。抱きしめる力が強まってお手上げ状態だ、もう止められない。とはいえ端から止めるつもりもないんやけど。
再び寄せられた顔に、あとはお任せしますというように再び目を閉じて俺はAくんに身体を委ねた。
Aくんは勝手にしたっていう罪悪感で記憶から消したいかもしれんけど、しょうみ振られたというか望み薄だと思ってたから混乱は避けられなかったけど。だけど、ちゃんと一回目もおれはうれしかったよ。
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作者名：南湖 | 作成日時：2023年3月15日 20時
