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もうなんかどうでもいいや。そういう半ば衝動的な気持ちでそのままネクタイを引き寄せた。なるようになる、というかどうにかする。身長差を埋める為の背伸びを少し。俺の同意なくキスした前科があるんだから逃げないでしょ、ね。そもそも、もう逃がす気もないけどな。
「っ、ンぐ、ちょ、…不破さ、」
縮まった距離とぶつかった唇。へったくそなキスに思わず笑ってしまう。ムードもクソもない。それでも、一回目も二回目もちゃんとしてないのがちぐはぐな俺らみたいで、悪くない気さえすんだから不思議だ。
「俺の一番は、Aくんなんやけど」
Aくんはどうなの、これで一番じゃないとか言われたら全然泣くが。みっともなく縋っちゃうけど、俺。あんなことしといてさ、好きじゃないなんて言うんだとしたらタラシもいいとこよ。俺はまんまと弄ばれたわけだ。
ねえ、教えて。
「…好きだよ、不破さんが。いちばん、」
ただぶら下がっていただけのAくんの腕が腰にまわされる。包み込んでいたはずの俺が今度はすっぽりAくんの腕の中に収まってしまった。
Aくんが放った言葉を理解するまで、の時間。じわじわと言われた好きの意味や重さを考えた。呑み込むまでに時間がかかるのも許して欲しい。焦がれた人から欲しい言葉が返ってきたんだから。
ずっと前から、欲しくて、でも手に入らないから諦めようとしたもの。
「不破さんが好き。一番とかそういう概念もないよ、正直。……不破さんだけ、居てくれたらそれで」
目が溶けそうなくらい熱くて、Aくんの指が目元を撫でたことでようやく自分が泣いているということに気付いた。上からはくすくすと笑い声が降ってくる。
「なーに、泣き虫なんすか実は。俺、知らなかったけど」
「……誰のせいだ思ってんの」
「俺のせい？はは、可愛いね …ほんとかわい」
「急に余裕ある感じ出すのやめてくんね｣
砂糖を溶かしたような甘い声で俺を口説くAくんが余裕そうに見えて、少し腹立たしい。さっきまで顔を赤くして照れてたっていうのにさ。
「余裕ありそうに見えます？」
「あるやろ、ニヤニヤしてんじゃん」
「まあ、それはそうだけど」
緩みきった顔を不満げに見上げればAくんの笑みはまた深くなった。
「でも、余裕あるとは言ってないじゃん」
頭を軽く抑え込まれて彼の胸に顔が埋まる。
当然のことに一瞬頭にはてなが浮かんだが、それもすぐに消えてった。
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作者名：南湖 | 作成日時：2023年3月15日 20時
