もう、なかないで。 ページ20
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あれからAくんとの関係に進展はない。露骨に避けられるようなこともないが、例の件について触れようとするとさり気なく話題を変えられてしまう。ふたりの話す時間も少しずつ減ってきたような気がして、寂しい。
もう俺のこと、好きじゃなくなったんか。Aの中に、俺は居ないのかな。
「あーーー！！！あれ、"噂の不破さん"じゃない？」
「こら、指を指さない。どちらの方？………あら、そうかも。聞いてた通りねえ」
慣れた道を歩いていると自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。俺を指名したことある女の子、ではなさそうだけど、特にこれと言って思い当たる記憶も無い。首を傾げていると、
「Aの言ってた通り、美人さんだねえ」
「確かに、うわ。アイツ、こういう子がタイプなんだ。ふーん…みんなに言っちゃお」
何やらAくんを知ってそうなことが会話から窺えて、思わず足を止めた。
｢……、Aくんの、」
「あ、ほら。やっぱり不破くんで間違いなさそうね」
「うーん、Aとは家族、みたいなもんかなあ……怪しいもんじゃないよ！｣
怪しいものじゃない、と自分で言う人の言葉は大抵信用出来ないが。背に腹はかえられない。Aくんの名前を出されるととことん弱いな、俺は。
「あ、そだ。えーっと、…不破くん、このあと時間ある？」
「…、……大丈夫、です」
普通だったら誰も乗らないこんな誘い。俺は結局呑んでしまうんだ、どんだけ怪しかったって。だって、こうでもしないと、俺はもうAくんに近付けないのだろう。そうなったら話を聞いてもらうことすらきっと難しい。漠然とだが、そう確信していた。
「ちょっと話さない？」と連れられてきたのはそういう、所謂夜の店で。
驚いた俺は慌てて踵を返そうとするが、「Aから話、聞いてるでしょ｣と言われたことで、あれ？と思考を巡らせる。
そうして、Aくんとの記憶をまるで走馬灯のように遡って、ようやく思い出した。それは、古い記憶としてしまい込んでいた話のこと。俺の世界にAくんが強引に飛び込んできた認識した、あの日のこと。
「A、ここで育ったの」
「本人曰く実家みたいなもんだって。前に店長のこと、お父さんだと思ってるって言ってたしね」
──────俺、親がいないんすけど
続いた言葉を覚えている。出会ったばかりの頃俺がした不躾な質問に返したAくんの答えが、今、目の前にあった。
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作者名：南湖 | 作成日時：2023年3月15日 20時
