片思いの心髄 ページ12
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いつも通り女の子の相手をしていれば近くの卓から黄色い歓声があがった。つられるように視線が集まる方向に目を向けると
「似合わなすぎません？俺」
「孫にも衣装だろ、大丈夫ちゃんとホストに見えるから」
「そういう問題じゃなくてさ…」
「人数足んないんだって、お前くらいしかいねえんだから許したれよ」
「いやあ、絶対俺粗相するから無理だって…」
ネクタイを締めながら歩いてきたのはAくんで、いつもの黒スーツではなく衣装としてのスーツに身を包んでいる。グレーのグレンチェックのスーツが新鮮だけど、似合っていた。いつもはオールバックにしている髪はウェット風にセットされていて、垂れた前髪から覗く琥珀色だけがいつも通りそこにあふ。
髪型と服装が変わっただけでAくんが夜の世界に染まったと錯覚しそうになる。
高身長でガタイもそれなりに良いから嫌でも目を引くし、実際Aくんを呼びたいなんて声も周囲からちらほらと聴こえてくるくらいには、かっこよかった。
「ね、ねえ…ミナトくん。あのひといつも立ってる黒服の人だよね？か、っこいいねえ。…み、ミナトくん？」
「…あ、ごめんね。姫、少し酔いが回ってきたみたいで」
そんなのは嘘で、目が離せなかっただけだ。純粋に似合ってんなという感想と、何とも形容しがたい苛立ちに似た感情が胸の辺りでぐるぐるしている。悟られないようにこやかな面を保とうとしても、全然内心は穏やかではない。
それにしたってどういうことだよ、なんであんな格好させてんだ、俺だって見たことねえわ。好きな人のかっこいい姿他の人に見られんのはさあ、流石に嫌に決まってんじゃん。Aくんもそんなへらへら笑ってやんな、余計な虫が付いたらどうしてくれんだ。
普段だってAくんを気にかける人が居たのに、そんな格好なんかされたらもう終わりよ。俺以外の前でかっこよくいないでくんない、そんな風に言えたらな。そんな権限ないけど、みんながAくんの魅力に気付くの、正直、結構やだよ。結構どころじゃない、嫌だ。やめてほしい。
ただでさえ勝てない試合もっと無理ゲーにしてくんのはどんな虐めなん。
俺だけが知ってたいのに、君のかっこよさも真っ直ぐさも、その瞳がとても美しいことも。何もかも全部。
独り占めしたかったんだよ、
この期に及んで悪足掻きしだそうとする感情が滑稽に思えて。ほんと、救えない。
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作者名：南湖 | 作成日時：2023年3月15日 20時
