愛しの黒服くん【fw】 (ページ2)

今日:31 hit、昨日:40 hit、合計:58,865 hit

ｰページ2

。

「この前まで肝臓やられてたのもう忘れたんすか、あんた自己管理下手くそすぎんだよな」

敬語とタメ口が混ざったこのなんともいえない距離感が好きで、好きなのに、たまに無性に壊してしまいたくなる。

ホストと黒服、職場の知人と友人の間を行き来するような関係。それが不服だと訴える胸の痛みには流石にもう慣れた。慣れたからってめちゃくちゃに壊してやりたくなる衝動のようなものが完全になくなるわけでもないから、難しいところだ。気安く接されると暴れ出しそうになる気持ちをいつもすんでのところで飲み込んでいる。

帰り送っていきますと一つこぼすと俺に上着を被せ、大して中身の入ってない鞄を代わりに掴む手。その一連の所作をぼんやりと視界に捉えながら、こういうさり気ない気遣いのせいで俺が君から抜け出せなくなってるのいい加減分かってくれたらなあ、とか。普段俺が店に来る女の子たちにするみたいな扱いされてこんなに喜んでんの馬鹿じゃん。

手遅れだと思ったのは何も性別のことだけでなく、こういうところもそうだった。

この男の、Aくんの優しさに雁字搦めにされて、抜け出せなくなっていたっていう馬鹿な話だけど。心配そうな顔してこんな風に優しくするけどさ、優しすぎるのってむしろ毒なんだって。多分そういうの知らんのやろな。相手から向けられた好意を無下に出来ないから、中途半端に俺に優しくするしね。
かといって急に冷たく突き放されたらそれはそれで耐えられないんだろうな、とも。生きてられんのか、なんて多分ってか普通に無理やろ。優しくされたくない、冷たくもされたくないって我儘なのは自覚してんだけどさ、自分をどうにかできるんならこんな勝算のない恋さっさと終わらせてんだよな。どうにもならないから苦しくて、ずっと動けないままここに居る。

今の心地良い関係が壊れてしまうなら、Aくんが俺の前から居なくなる可能性があるのなら、

そうなるくらいなら、と思う自分がいた。それじゃあただのホストと黒服がいいな。
関係を壊したいと心は泣いて、望んだものにならなかったらどうするのと理性が言い募る。そんな応酬の繰り返し。好きだって言わんからさ、その代わりと言っちゃなんだけど。一生俺に生温いままでいてほしい、なんて。不破さんはほんと仕方ない人だなって困ったような顔で俺を叱るAくんが見れなくなるのは嫌だった。

。