🐚興味と海の向こう ページ8
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彼女の噂は、南の海にいた頃から知っていた。
“ 海賊探偵 ”
“ 絶世の美女 ”
“ 金木犀の香り ”
“ 世界最高峰の頭脳 ”
なんだそりゃ、と思った。
正直、その頃彼女をものすごく毛嫌いしていた。
自分自身外も中も幼かったと言うのもあるが、それに加えて
天から授かった才能を持った彼女を逆恨みしていた。
当時何も持っていなかった、ボロボロの自分に
彼女は何もかも持って生まれた、“ 選ばれた人間 ”に見えてならず。
食うものも、寝床すら選べない日々の自分が億劫になった。
垢と泥で汚れた自分が嫌いになってしまって。世界が狭く見えてしまった。
海賊なんてどいつもこいつも屑ばかりだ。
私欲に塗れて、他人の居場所をかくもゴミのように奪ってしまう。
そして島を荒らし、人の涙を踏み台に汚い笑みを浮かべる。
本に出てくる悪魔なんかよりも悪魔に見えた。
でも、でも…彼女だけは、何処か違うようだった。
だからこそ、余計にイラついた。
床に落ちた世界経済新聞を拾い上げる。
生憎字を読める程教育を受けていないので、写真からしか情報を読み取れない。
それでも毎回映るのは、意地汚い笑顔の海賊に、海の戦士ソラの絵物語。
大人達の何をしたいのか分からない経済情報に、ゴールド・ロジャーと言う海賊の写真。
そしてそれさえも押しのける、美しい金木犀の彼女＿＿＿。
“ 海賊探偵のA!!!またもや難事件を解決!!!東の海を救う!!! ”
写真を見れば、恐らく彼女が何か事件を解決したのだろうとわかった。
美しい横顔が、白い髪を神々しく輝かせていた。
無表情のその顔の裏で、いつも何を考えているのか…。
嫌いなはずだ。こういう奴は大嫌いなはずだ。
相手の大切なものを奪って、世界に名を轟かせ。それを誇りと掲げる悪魔達と同類のはずだ。
なのに…彼女の写真には毎回、喜び歓声をあげる人々しか写っていない。
気に入らない野郎なのに、何故こんなにも興味を引くのか。
島を占領している海賊達に殴られてでも、新聞を拾いに街に行くのは何故だろう。
汚く醜い自分でも、生きていこうとするのは何故だろう。
この青い液体の向こう岸に彼女はいるんだと、高揚するのは可笑しいのだろうか。
「この海に出れば、あの人に会えるのか…」
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作者名：みるく | 作成日時：2022年11月14日 18時
