◎残酷な現実と夢 ページ6
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「………お前から話しかけるなんて……俺ァ、まだ夢ん中にいんのか…？」
しばらくして、クザンは濁点のついた渋い声をだした。
その声はため息と混じっていて、酷く落胆し切った彼の心情をそっくりそのまま表していた。
「……夢じゃないよ、クザン。今起きた事象が全て現実さ…否が応でもね…」
Aは苦味潰した顔をしながら、あの事件を脳内に思い浮かべる。
燃えて消えてゆく家、集落。悲鳴と肉と血の焦げた、鉄のような匂い。
島一つが一夜にして消え去った。その事実と責任はあまりにも彼を失望させている。
証拠に、いつもならばおふざけに聞こえる台詞が、今では場を重くする一声となってしまっている。
「………悪魔の子。この子供は君が逃がしたのだろう？」
Aが一枚の紙を取り出した。
クザンはそれに応じず。先程から変わらずに、右腕を両目の上に乗せ
酷い熱が出た時のように、ぐったりと草むらに寝こけている。
答えたくないのか、それとも答えてはいけないのか。
Aは仕方なしに、クザンに近づく。
あんな事件があったのに、まるで興味がないかのように
平和にざぁざぁと草と草が擦れる音が、この世界の残酷さを奏でている。
遠くからは鈴虫が、嘲笑うようにリーリーと羽を擦り合わせている。
昨日今日と雨が降っていないはずのこの島。
クザンの黒髪は、目元付近がしっとりと濡れていた。それもかなり深くまで。
「なぁ、名探偵」
「なんだい？」
「……正義っつーのはなんなんだろうな」
「……私は神のみぞ知る、金科玉条な気がするね。
…要はその先に、その者が何を求めるのかによるのだよ…。正義を掲げて、人を殺めて
その先に見えるのが、平和か。それとも正義を全うしたと言う達成感か。はたまた
己の欲望を正義の鉄槌と同類視し、うやむやの発散に正義を道具としたのか。
…君はなんだったんだい、？」
「…………」
「誰かを守りたかったのかい？」
「…………」
「大切な人の生活を守りたかったのかい？」
「…………」
「海軍という組織に貢献する為かい？」
「…………」
「大切な友の正義を、守りたかったのかい？」
「っ…………」
ようやく、クザンがそれらしい反応を返した。
右腕は意地でも動かしたくないのか、ぐっと押し付ける。
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作者名：みるく | 作成日時：2022年11月14日 18時
