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第8演目 ページ9

それから数時間後。
「ちょりーっす!真樹ちゃんいるー?」
一際明るい声が、共同楽屋に響いた。
「真樹なら、成瀬君と一緒に作業部屋に行ったよ。
何か用事?」
黛さんが彼女に答えて訊き返した。
彼女は轟京子さん。
うちのスタッフさんの一人で、衣装関係を全て受け持ってくれている。
チャラい言動と派手な見た目から誤解される事もあるけど、
センスが良くて仕事も完璧にこなせるから皆に信頼されている。
「今回の衣装の事で訊いておきたい事があってさー。
素材とか構造とかさ。
何つーか、今回のって複雑じゃん?」
今回僕らが演るのは、<ヴェニスの商人>と言う舞台。
確かに、中世イタリアの女性の衣装は複雑だよね。
特に僕の場合はバサーニオ役の黛さんよりも
小柄に見せないといけないから、
衣装の力で百七十八センチの彼と
百七十六センチの僕との差を広げる必要がある。
「それなら僕がお話聞きますよ。」
「いや、ポーシャはすぐに出来るんだよね。
細かい所が分かりやすいし。
でも真樹ちゃんのネリッサがマジで分かんないの。
ポーシャは貴婦人でネリッサはその女中じゃん?
シンプルな分個性的に見せられないんだよねー。」
言った後に、彼女がはっとなった。
「愚痴みたいになっちゃったね。マジごめん!」
「いや、心中察するよ。
毎回考えてくれてありがとね。」
ごく自然に黛さんがフォローを入れる。
また彼女の声が明るくなった。
「まゆゆ…!
あ、教えてくれてありがと!あでゅー!」
そう言って、轟さんが作業部屋まで歩いていった。

共同楽屋が、急に静かになる。
「いつに無く忙しなかったね。」
「轟さん、確かにきらびやかな衣装の方が
得意なのかも知れないですね。」
「作り甲斐もあるだろうしね。」
のんびり話した後で、また台本に目を通す。
今の時代に合わせて、黛さんが一部の表現や結末を変えてくれたものだ。
シェイクスピアの過激な笑いを、雰囲気を
損なわずに優しい言葉に書き換えてくれた。
「黛さんって本当に表現が上手ですよね。」
「元の話が良いからそう思うだけでしょ。」
「そんな事無いですよ。憧れちゃいます。」
「…それを言うなら弦月君も上手いよ。
俺は曲は作れないし、器用でも無いしね。」
あのクールな黛さんが、素直に人を褒めた…!
それが何だか嬉しくて、思わずふふっと笑ってしまった。
「何。」
「何でも、無いです…。」
咳払いで誤魔化し、台本で首元を扇ぐ。
「もう一回、水飲んどく?」
彼がどこか得意気な顔で言った。

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螢羅(K-Ra)(プロフ) - のんさん» コメントありがとうございます!更新速度が遅い分、質の良いものが書ければと思います! (2020年12月22日 20時) (レス) id: b7b3ad2127 (このIDを非表示/違反報告)
のん(プロフ) - 更新楽しみにしてます!!頑張ってください!! (2020年12月22日 20時) (レス) id: 6bec40b297 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:螢羅(K-Ra) | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2020年10月29日 1時

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