鬼才の画家 ページ13
「エエドドドドドッガガガさんどうしたんですこんな夜更けに」
腰が抜けて、やわやわと倒れ込む、泳ぐ目を何回か瞬きする。そうだ、これは夢なんだと頬をつねっても夢は覚めない。つまりこれは、現実。現実である。
「動揺が隠せてない⋯はあ、夜に出ていく物だから、夜間外出禁止の規則を知らないのかと思ってね。けどナイチンゲールが居たから大丈夫かなって、引き返そうとしたんだけど⋯」
「だけど？」
「着いてきてみた。」
何食わぬ顔で言うから「もうお茶目さんったら！とはなりませんよ！！！あなたのキャラじゃないですよね？？」と、故郷のノリで、ついぽっと出芸人のように突っ込んだ。
「インスピレーションは意外な所で得るんだよ⋯それより、僕の絵で何をしているの？」
「あ、えっと⋯」
「確かに燃やすなりとは言ったけど、まさか背景を自分で作って自分の物にしようだなんて、許さないよ。」
「え違」
「何が違うの？」
パレッドナイフを片手して、月光を背に、にこやかな笑みを浮かべるワルデンさんに、私は思う。
ああ。やっぱり美人って栄養だわ⋯流石⋯供給をありがとう⋯やっぱりトリップ先には美人しか居ない世界が広がってるってばっちゃんが言ってた事は本当なんや⋯ああ⋯めぐみ⋯
「ねえ、なんか変な事考えてない？」
軽蔑する表情をしたワルデンさん。ぶちり、と心のどこかで聞こえた気がする。
そう、私はついに耐えきれなくなり、吐き出した。
「考えてないですよ！そして自分の物にしようなんて不敬で不躾で無礼な事は致しませんこの犬従順で悪とはなにかを心得ておりますので」
「え⋯急に饒舌になって⋯な、何？立て板に水だね⋯？」
「申しあげますとエドガー様の絵を廃棄なさると聞き、それは勿体ないと、ならば私の手で完成させてやろうと考えていました。しかし物足りず私が背景を⋯と思いまして、後日部屋が与えられた時にやれば良かったのですが、何分私はせっかちでしてこうして深夜に抜け出したと言うわけです美しや」
「最後のは意味が分からないけど分かった。そう言う事なんだね⋯僕の絵の素晴らしさが損なわれているようで残念だけど」
「正しく左様でございます。絵が描けるからと舐めておりました。やはり私には不可能なようでございます。友達になりませんか」
「ならないけど、うーん。そうだね⋯ちょっと貸して、」
私の手から筆が取り上げられる。
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作者名：楢葉 しのぶ | 作成日時：2022年9月7日 3時
