悪女に花束を。

冷たい心 ページ50

大丈夫、大丈夫



今はまだ、私の意識はハッキリとしている


頭痛と吐き気を促すあの砂嵐音も響いてこない



し「(今なら、ちゃんと話せる)」


好機だとばかりに、しのぶは浮き足立つ心を抑え困惑の表情を浮かべるAを見据え口を開こうとした

その時ー…





「何をしている」





突然背後で冷たい声がした





「何故お前がここにいる」





冷たい声の主は、いつの間にかしのぶの背後に近づいてきていた冨岡義勇だった


A「義勇！」


し「………」





───義勇





呆れたような笑いが漏れる


私には彼の名前を呼ぶことすら出来ないのに…



A「義勇！しのぶは声をかけてくれただけだから」


冨「……そうか。A、先に戻っていろ。俺もすぐに行く」



優しくAを送り出す彼の瞳と、温かな声に私はうつむくしかなかった



し「(どうして、私じゃないの…？)」



Aの姿が完全に見えなくなってから、冨岡さんが私のほうを振り向くのが気配でわかった



冨「Aに近づくな」


し「っ……」



その口から発せられる冷たい言葉に首が締め付けられる



冨「次、Aに近づくようなことがあれば容赦しない」



振り返った彼の後ろ姿が、冷えきった胸に突き刺さった









(第１部・前編完結)

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