＊ ページ10
「あのそれで……話って、なんでしょうか」
「自分で誘っておいてアレなんですけど……これから言うことはおっさんの独り言だと思って聞いてください」
「……？ はい、」
個室の外、ガヤガヤと店の喧騒が絶えず聞こえている。
「まずは、結果的にAさんの気持ちを弄ぶようなことをしてしまってすみませんでした。あの時迷惑だってはっきり言われなかったら多分、俺ずっとやってたと思います」
「い、いえ、それは私も言い方が……あっ、独り言……」
俺が言い訳に使った設定を律儀に守ろうとしているらしい。そのまま口を噤んで引き下がるところが彼女の真面目さをよく表している。
「Aさんに告白されてから、なんか俺……Aさんのことが気になっちゃって。今何してるのかなって、気付いたら目で追ってたし、過保護になってしまっていたのも、今思えばなにかしてあげたいって気持ちからだったんです」
「なかしま、さん」
徐々に本題へと切り込んでいく俺にAさんも察したのか、今にも泣きそうな表情で彼女は俺の名を呼んだ。
伝えたい言葉は舌の根まで来ている。体の芯は熱を持っているのに、手足の先は水に浸したみたいに冷えきっていた。
「俺、Aさんが好きです。まだ俺のこと好きでいてくれてたらなって、Aさんに迷惑だって言われてからずっと思ってた」
大事なことははっきりと前を向いて。彼女は目を逸らさなかった。
「今更遅いとは、わかってるんですけど。Aさんさえ良ければ、付き合ってもらえませんか」
言い終わるが早いか、彼女の瞳から涙が一滴頬を伝っていった。それから何度も何度も頷いて、机にパタパタと雫が落ちる。
「え、ほ、ほんとに？」
「中島さん、独り言じゃ、返事できないですよー……」
そんなことを言うものだから、おかしくなって笑ってしまった。まだその設定生きてたんだ。
こんな時ハンカチを渡せればスマートだったのだが、持っていなかったのでテーブルの上のティッシュを数枚手渡す。
「あんまり泣かないでください、俺が泣かせたみたいじゃないか」
「実際そうです」
「え、あ、すみません……」
「ふふ、冗談です。……私も中島さんが好きです。諦めようとしたんですけどね。無理でした」
潤んだ瞳で笑みを浮かべる彼女。不意に抱きしめたい衝動に駆られて隣へ行こうしたが、店員が頼んだ料理を運んできて我に返る。何考えてんだ俺。
きっと幸せすぎて自分が自分じゃなくなってしまったのだと、そう思った。
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静寂(しじま)(プロフ) - エミさん» 返信遅くなりすみません…！ありがとうございます！最近忙しいのとネタ切れで更新できてませんが更新は続けますので気長にお待ち頂けると嬉しいです！ (2022年4月13日 0時) (
レス) id: 8344300b59 (このIDを非表示/違反報告)
エミ(プロフ) - 静寂様の書かれるお話が凄く好きです…これからも更新楽しみにしています〜！☺ (2022年4月2日 0時) (レス) id: a0e3c6c9d5 (このIDを非表示/違反報告)
静寂(しじま)(プロフ) - 咲世さん» コメントありがとうございますー！楽しんで頂ければ幸いです！🙇♀️ (2022年2月13日 17時) (レス) id: 8344300b59 (このIDを非表示/違反報告)
咲世(プロフ) - バレンタインの更新楽しみにしてます！ (2022年2月13日 9時) (レス) @page19 id: d952fb547f (このIDを非表示/違反報告)
静寂(しじま)(プロフ) - 千寿さん» まさに表現したかったことが伝わったようで良かったです〜！次回ありましたらぜひまたよろしくお願い致します！ (2022年1月29日 18時) (レス) id: 8344300b59 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：静寂(しじま) | 作成日時：2022年1月21日 0時
