【ナ】醒めない恋で彩って【短編集】

アイスもココアも/蘭 ページ32

遠くで子供の騒ぐ声がする。こんな暑い日によくもまあ元気に走り回る気になるものだと10年以上前の自身を棚に上げてそう思った。
夏休みが始まって一週間。補習最終日。隣を歩く癖っ毛と共に担当教師の悪口を言うこの日々も、今日で最後だ。

「あちー」
「それなぁ」

お互い暑さでドロドロに溶けた脳みそで言葉を交わす。
補習常習犯の私たちは何かと気が合った。長期休みに入る度にこんな風に毎日肩を並べて歩いては、たわいの無い話をしてそれぞれの帰路に着くのが習慣になっている。

「あ。あそこ。行こうよ」

紫野くんが指差した先には生温い風に揺られてヒラヒラと踊る『アイス』の文字。途端に砂漠でオアシスを見つけたような気になって、早足で向かった。

．

店を出てから私のアイスと同じだけのお金を渡されて、断ったけれど受け取ってくれなかった。要するに奢られてしまったわけだが、金欠だと昨日の今頃言っていた気がするからなんだか申し訳ない。
突然の優しさに少しだけ困惑したまま、彼と一緒に店先のベンチに腰掛ける。待ちきれずに座る前に一口齧ったアイスが途端に口内を冷やして気持ちがいい。

「それ何味？」
「ヨーグルト。Aのは……待って！ 当てるから。ソーダでしょ」
「正解だけどまあ色でわかるよね」

こんな暑い日にはソフトクリームよりもこういうぎゅむぎゅむした食感のやつがいい。

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