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「な、中島くん」

彼は私を見ると少し慌てて、「は、はいっ」と上擦った声で返事をした。

「あの………………卒業、だね」
「えっ? ああ、うん。そう、だね」

何やってんだ私。こんな事を言いに来たんじゃないでしょう。
唾と一緒にせり上がってきた心臓を飲み込む。言い聞かせるようにして誰よりも応援してくれている彼女の言葉を反芻した。今を逃せば、もう無い。

「えっと……お願いがあって」
「お願い?」
「その……第二ボタン、頂けませんか」

怖くて顔は上げられなかった。もしも断られたなら、このまま頭を下げて彼女の元へと逃げ帰るつもりだ。昨夜磨いたローファーが目に入る。

「えっと……逆になん、ですけど……俺なんかのでいいんですか?」

返ってきた言葉の意味が一瞬わからなかった。フリーズしていると上から「Aさん?」と声が降ってきて、私は反射的に視線を上げた。

「あっ、人違いとかじゃないよね? 一応俺中島っていうんですけど」
「し、知ってます! ずっと見てたので! あっ……」

セットのセリフみたいに勢いで言ってしまった言葉に思わず口を手で覆う。頬が火照って耳までカッと熱くなるのがわかった。
中島くんはそんな私を見て、何がおかしいのか笑い出す。

「あー……すみません笑っちゃって。えっと……まあその、俺も見て、ました」

わかりきってるくせに、今更とぼけて「誰を?」なんて聞きかけた私の目の前で、中島くんはボタンを外し始める。
程なくして差し出された大きな握り拳におずおずと手のひらを差し出して、今の今まで彼のものだったそれは私のものになった。

「俺だと思って大切にしてください……は気持ち悪いな」
「します! ずっと、します」
「はは、ありがとうね」

中島くんは本気にしていないようだったけど、私の想いはちゃんと伝わっているのかな。自信の無い彼のことだから、私の一方的な勘違いで終わってしまうかもしれない。

「あの中島くん」
「はい?」
「……好きです」

──本当は同じ言葉が聞きたかったけれど、「あー……」と言って目元を覆った彼がニヤけているのを確認したので今はそれで良いことにした。いつか聞ければ今はそれで。

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作品ジャンル:恋愛
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静寂(しじま)(プロフ) - エミさん» 返信遅くなりすみません…!ありがとうございます!最近忙しいのとネタ切れで更新できてませんが更新は続けますので気長にお待ち頂けると嬉しいです! (2022年4月13日 0時) (レス) id: 8344300b59 (このIDを非表示/違反報告)
エミ(プロフ) - 静寂様の書かれるお話が凄く好きです…これからも更新楽しみにしています〜!☺ (2022年4月2日 0時) (レス) id: a0e3c6c9d5 (このIDを非表示/違反報告)
静寂(しじま)(プロフ) - 咲世さん» コメントありがとうございますー!楽しんで頂ければ幸いです!🙇‍♀️ (2022年2月13日 17時) (レス) id: 8344300b59 (このIDを非表示/違反報告)
咲世(プロフ) - バレンタインの更新楽しみにしてます! (2022年2月13日 9時) (レス) @page19 id: d952fb547f (このIDを非表示/違反報告)
静寂(しじま)(プロフ) - 千寿さん» まさに表現したかったことが伝わったようで良かったです〜!次回ありましたらぜひまたよろしくお願い致します! (2022年1月29日 18時) (レス) id: 8344300b59 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:静寂(しじま) | 作成日時:2022年1月21日 0時

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