大切にします/8 ページ29
「まだ好きだったんだ」
昼休み。弁当を広げて談笑する彼──中島くんを盗み見る私に気が付いた親友が、私の向かいでため息混じりに言った。
「まだって何。振られるまでは好きですぅ」
「一途だねぇ。でもやっぱわかんないなあ……まあうん、悪くは無いけどさ」
「うるさいなー、いいのわかってもらわなくて! てかわかられちゃ困る」
「はいはい」
*
そんな会話を、なんでわざわざ今みたいな時に思い出すんだろう。
卒業式が終わったあとの生徒玄関の前では、同学年の皆がそれぞれの友人たちとの別れを惜しんでいた。
私もその例外ではなくて、1年生の時からずっと仲良くしてくれていた彼女と春休みに早速遊ぼうと約束を取り付けていたところだったんだけど。
「あっ、Aちょっと」
「ん?」
彼女が指差す先にいたのは中島くん……と、他クラスの全く知らない女の子。
彼が少し困ったように自分の胸元を指差し、そして俯く彼女がぎこちなく頷いたのを見て、大体どんな会話が行われているかピンと来てしまった。一瞬にして胸がざわめく。
「何話してんだろうね」
「……第二ボタン、」
「え!? あの子が? 貰いに来てんの? やばいじゃん取られちゃうよ」
「うん……」
取られちゃうよ、って言われても。ろくに話したこともないのに貰いになんか行けない。だからあの子は私よりもずっとすごくて、もうこの時点で私は負けたんだ。普段の中島くんを見るにきっと関わりの無い子だろうに、あんな風に果敢に向かっていける勇気は私には無いから。
悔しくて、でも結局何も出来ないから見ていられなくて、私は逃げるように足元に視線を落とした。
「え、あれ? 中島、渡さなかったけど」
「えっ」
思わず目線を中島くんの方へ戻す。申し訳なさそうな表情の彼と、女の子がぺこりとお辞儀をして去っていく様子が見えた。
「行かなくていいの?」
「……でも」
「でもじゃない、今逃したらもうないよ」
いつになくはっきりとした口調の彼女に背中を押され、私は彼の元へ向かう。去り際、ぼそっと「がんばれ」と彼女が言うのが聞こえた。
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静寂(しじま)(プロフ) - エミさん» 返信遅くなりすみません…!ありがとうございます!最近忙しいのとネタ切れで更新できてませんが更新は続けますので気長にお待ち頂けると嬉しいです! (2022年4月13日 0時) (レス) id: 8344300b59 (このIDを非表示/違反報告)
エミ(プロフ) - 静寂様の書かれるお話が凄く好きです…これからも更新楽しみにしています〜!☺ (2022年4月2日 0時) (レス) id: a0e3c6c9d5 (このIDを非表示/違反報告)
静寂(しじま)(プロフ) - 咲世さん» コメントありがとうございますー!楽しんで頂ければ幸いです!🙇♀️ (2022年2月13日 17時) (レス) id: 8344300b59 (このIDを非表示/違反報告)
咲世(プロフ) - バレンタインの更新楽しみにしてます! (2022年2月13日 9時) (レス) @page19 id: d952fb547f (このIDを非表示/違反報告)
静寂(しじま)(プロフ) - 千寿さん» まさに表現したかったことが伝わったようで良かったです〜!次回ありましたらぜひまたよろしくお願い致します! (2022年1月29日 18時) (レス) id: 8344300b59 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:静寂(しじま) | 作成日時:2022年1月21日 0時