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体を揺さぶられる感覚で意識が浮上する。「Aちゃーん、Aさーん、おい、A!」と私を呼ぶ声がはっきりと聞こえたところで、現在の事の重大さに気が付いた。
「おかえり! ごめんなさい! ちがうんです!」
「おぉ起きた……いや何を謝ることがあんねん、べつに怒ってないよ」
そう言いながら、すぎるはちらりと私の後ろに目をやる。
大好きな人の匂いに包まれて大好きな人のことを考えていたら、安心したのかいつの間にか寝てしまっていたらしい。飛び起き、慌てて後ろ手に隠したTシャツは今しがたしっかりと見られてしまった。いたたまれなくなった私の背を冷や汗が伝う。
「まあ、どういう状況? とは思ったけどな」
「……これがクローゼットの隙間からはみ出してて……片付けるつもりで勝手ながら開けさせて頂いたんですけど……気付いたらその、抱き締めて寝ていて……」
こうして言語化すると尚更、我ながら罪状がアホすぎる。
どんどん小さくなった語尾と一緒に視線を下げていると、突然視界が暗くなった。同時に背中に回された手がぎゅっと私を引き寄せる。
「はぁーもぉほんま、かわいすぎるやろぉ……」
上から振ってきたそんな一言に心臓が壊れてしまいそうなほど鼓動を鳴らしながら、私も応えるように両腕を彼の背に添えた。
「ごめんなあ、寂しかったやろ?」
「………………はい」
「んはは、正直なとこもかわいー!」
今の私には強すぎる大好きな匂いとやけに甘い言葉で、熱々の顔から順に溶けてしまいそうになる。
Tシャツよりも断然強い、大好きな匂いにクラクラしかけていると、不意にすぎるが呟いた。
「……かわいい、けど」
「え?」
「本物帰ってくんの待っててくれてもええやんか」
それを聞いた私は思わずきょとんとしてしまう。本物って、すぎるのこと? 待っててくれてもって、Tシャツよりも先に抱きしめてほしかったってこと?
まさか自分に妬いてるの? と面白がって聞いてみれば、すぎるの返答は「うるさいねん、」とのこと。わかりやすい照れ隠しに笑っていると、お仕置きとばかりに鼻をきゅっと摘まれた。
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静寂(しじま)(プロフ) - エミさん» 返信遅くなりすみません…!ありがとうございます!最近忙しいのとネタ切れで更新できてませんが更新は続けますので気長にお待ち頂けると嬉しいです! (2022年4月13日 0時) (レス) id: 8344300b59 (このIDを非表示/違反報告)
エミ(プロフ) - 静寂様の書かれるお話が凄く好きです…これからも更新楽しみにしています〜!☺ (2022年4月2日 0時) (レス) id: a0e3c6c9d5 (このIDを非表示/違反報告)
静寂(しじま)(プロフ) - 咲世さん» コメントありがとうございますー!楽しんで頂ければ幸いです!🙇♀️ (2022年2月13日 17時) (レス) id: 8344300b59 (このIDを非表示/違反報告)
咲世(プロフ) - バレンタインの更新楽しみにしてます! (2022年2月13日 9時) (レス) @page19 id: d952fb547f (このIDを非表示/違反報告)
静寂(しじま)(プロフ) - 千寿さん» まさに表現したかったことが伝わったようで良かったです〜!次回ありましたらぜひまたよろしくお願い致します! (2022年1月29日 18時) (レス) id: 8344300b59 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:静寂(しじま) | 作成日時:2022年1月21日 0時