専属パティシエール/蘭 ページ26
目の前には乱雑に広げられた学校指定の英語の問題集。小テストがピンチだから教えてくれって言われて引き止められて、蘭たんが取り組んでいるその間暇な私は彼の漫画を借りている。
「なんかさあ」
「んー?」
「今日って何の日だっけ」
明らかに不機嫌そうな蘭たんを無視して、私はまた漫画に視線を戻す。
2月14日。多分、男子なら100人に95人くらいはソワソワする日。けれども私はそれがわかった上であえて何にもしていない。
「ふんどしの日じゃなかったっけ」
「あー出た出た。言うと思った」
お決まりのネタで焦らすように答えを濁せば、蘭たんは「あー思い出せねーなー、なんの日だっけなー」と音量を上げて反撃してくる。
「それはいいとして、それどこまで進んだの?」
「3問目」
「はっ? まだそこ? 早くやりなよ」
「答えてくんないとやる気出ない」
そう言うと彼はついにシャーペンを置いて背もたれに体を預けてしまった。
欲しいなら欲しいと言えばいいのに、遠回しに伝えてくるのが素直じゃないというか、蘭たんらしいというか。そんなんだから友達に猫って言われるんだよ。
わがままのレベルが小学生と同じだななんて思いつつ、私はリュックの中から紙袋を取り出して、一点を見つめ放心している彼へと突き出した。
「はい」
「……えっ」
「これが欲しいんでしょ」
「え、まじで? お、俺に?」
「そう、俺に」
欲しがったのは自分のくせに、いざ貰うとちょっと遠慮気味になるのは何故なのか。携帯を買ってもらった子供みたいにはしゃぎ出した蘭たんがやかましくて笑ってしまう。
「え、用意してたってこと?」
「……どうだろうね?」
「えちょっと、大事だってそこ」
「いいから! 開けてみてよ」
さっきまでの気怠げな様子はどこへやら、一転して前のめりの蘭たんを制して、彼の意識を紙袋に向けさせた。机の上の紙束は雑に脇へ寄せられていって、彼の前にスペースができる。
「えっマカロン?」
「うん」
「えこれAが作ったん?」
「まあ、一応」
「すげー、こんなん店のやつじゃん」
ここまでベタ褒めされるとは思っていなくて、準備不足の口角が思わず上がった。蘭たんが見てなくて良かった。
いただきまーす、と言って彼が一粒口に入れる。途端、その目が輝いた。
「うまーっ!」
それから機械みたいにそれしか喋らなくなった彼に被せて、「蘭たんにだけだよ」と口の中で小さく呟いてみた。
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静寂(しじま)(プロフ) - エミさん» 返信遅くなりすみません…!ありがとうございます!最近忙しいのとネタ切れで更新できてませんが更新は続けますので気長にお待ち頂けると嬉しいです! (2022年4月13日 0時) (レス) id: 8344300b59 (このIDを非表示/違反報告)
エミ(プロフ) - 静寂様の書かれるお話が凄く好きです…これからも更新楽しみにしています〜!☺ (2022年4月2日 0時) (レス) id: a0e3c6c9d5 (このIDを非表示/違反報告)
静寂(しじま)(プロフ) - 咲世さん» コメントありがとうございますー!楽しんで頂ければ幸いです!🙇♀️ (2022年2月13日 17時) (レス) id: 8344300b59 (このIDを非表示/違反報告)
咲世(プロフ) - バレンタインの更新楽しみにしてます! (2022年2月13日 9時) (レス) @page19 id: d952fb547f (このIDを非表示/違反報告)
静寂(しじま)(プロフ) - 千寿さん» まさに表現したかったことが伝わったようで良かったです〜!次回ありましたらぜひまたよろしくお願い致します! (2022年1月29日 18時) (レス) id: 8344300b59 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:静寂(しじま) | 作成日時:2022年1月21日 0時