【ナ】醒めない恋で彩って【短編集】

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初対面ゆえ、会話の内容自体は当たり障りのないもので何一つ深い話なんてしていないけれど、不思議と居心地の悪さは感じなかった。前から知り合いだったかのような空気感はむしろ安心感さえ覚える。男性陣の中では比較的大人しそうに見えたけれど、意外にコミュ力はあるんだなと失礼ながらも思った。

「中島さんこそ、背も高くてスタイルも良いじゃないですか。彼女さんとかいらっしゃらないんですか？」
「いやまあ……いたら来ないですよね」
「私と同じこと言うじゃないですか。でもそうですよねー」

いつもより饒舌なのはお酒の力だ。シラフならこんなに会話が続くわけがない。よく回る口で余計なことを口走るんじゃないかと慣れない状況に少しだけ怖くなる。
会社での普段の自分のコミュ障ぶりを連想して頭を流れる映像を追ううちに、ふと私は思い出した。

「あっそうだ。……中島さん、これ良ければどうぞ」
「えっ、チョコ、ですか？」
「はい。一応こんな日なので会社で配ったんですけど、まとめて買ったんで余っちゃって」

配布用に選んだ箱詰めのチョコ菓子は、1箱減らすと足りないが増やすと少し多い、そういう微妙な数量のものだった。かと言って残った分を一人で食べるには多いのでちょっと困っていた。
しかし手渡しても彼は私の手元をじっと見つめるばかりで手を伸ばそうとしない。

「あっ、もしかして甘いの嫌いでしたか……？」
「えっ？ あっいや！ 大丈夫ではあるんです、けど……その、面と向かって貰うとなんか緊張してしまって……」

紛れもなく義理でしかないのに、おずおずと出された指は箱など簡単に取り落としてしまいそうなほどに弱々しかった。今まで体験したことの無い変な空気に私の方まで萎縮してしまって、伝染した緊張が解れることなく私にまとわりつく。

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