＊ ページ22
「これ……貰ってくれたりしない？」
「えっ、俺ですか？」
「うん。ほんとはあげる人居たんだけどね。その、ついさっき、居なくなって、」
次第に震えゆく声。じわりと潤んだ瞳からは雫が溢れ出す。やけに綺麗な格好と紡ぎ出された言葉から、彼女の身に何が起きたかは何となく推測できた。
「俺で良かったら全然もらいますけど……ほんとにいいんですか」
「うん、持ってても悲しくなるだけだし。でもチョコに罪はないから」
受け取った箱は程よく重みがあって、目の前で涙を拭う彼女の想いの大きさと重ねてしまってなんだかこっちまで切なくなった。
ただ。
正直、嬉しかった。チョコを貰えたこともそうだが、彼女が�牋貎佑�り�瓩任い襪海箸�、だ。『チャンス』だなんて、そんな下賎な考えに行き着く自分は最低だとは思うけれど、それほど嫌いではない。
「じゃあ、ありがたく貰っておきます」
「ありがとう、ごめんね」
「いや全然。……あのAさん。空いてる日って、いつですか？」
「な、なんで？」
「貰ったからにはお返ししたいんで」
スマホでスケジュールを確認して、テキパキと候補日をいくつか挙げる。彼女は『こっちが頼んだことだから』と言って粘り強く断ろうとしたが、引き下がるわけにいかない俺はなんとか彼女を説き伏せ、約束を取り付けるに至った。
．
「それじゃ、来月また」
「うん、またね」
「楽しみにしてますね」
「……うん。お返し期待してるね？」
そう冗談めかして言って、赤みを帯びた瞳を細めて彼女は笑った。
去り際、微かに匂わせてみたのだが、Aさんは少しでも勘づいてくれただろうか。
自分を捨てた男なんかに囚われたままの頭が、俺のことでいっぱいになればいい。そんな思いを込めた俺なりの精一杯の一言だったんだけど。まあ、気付いてないよなあ。
ブランド物のリッチな箱。これを貰っていたかもしれない男がいると思うと腹立たしくて、けれどもそれが今自分の手の中にあることは嬉しくて。複雑な気持ちで家路を歩いた。もうあの日みたいに諦めることはしないと、今決意した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 89人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
静寂(しじま)(プロフ) - エミさん» 返信遅くなりすみません…！ありがとうございます！最近忙しいのとネタ切れで更新できてませんが更新は続けますので気長にお待ち頂けると嬉しいです！ (2022年4月13日 0時) (
レス) id: 8344300b59 (このIDを非表示/違反報告)
エミ(プロフ) - 静寂様の書かれるお話が凄く好きです…これからも更新楽しみにしています〜！☺ (2022年4月2日 0時) (レス) id: a0e3c6c9d5 (このIDを非表示/違反報告)
静寂(しじま)(プロフ) - 咲世さん» コメントありがとうございますー！楽しんで頂ければ幸いです！🙇♀️ (2022年2月13日 17時) (レス) id: 8344300b59 (このIDを非表示/違反報告)
咲世(プロフ) - バレンタインの更新楽しみにしてます！ (2022年2月13日 9時) (レス) @page19 id: d952fb547f (このIDを非表示/違反報告)
静寂(しじま)(プロフ) - 千寿さん» まさに表現したかったことが伝わったようで良かったです〜！次回ありましたらぜひまたよろしくお願い致します！ (2022年1月29日 18時) (レス) id: 8344300b59 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：静寂(しじま) | 作成日時：2022年1月21日 0時
