臆病なだけだから/す ページ3
ソファの背もたれから焦茶が覗いている。地毛とは異なったそれにふと時の流れを感じた。あの頃は今よりもずっと小さな黒い頭が、すぐるくんすぐるくん、と抱っこをせがんでいたっけ。向こうだっていい大人であるのに、大きくなったなあ、なんて親戚のおじさんみたいなことを思った。実際年の差は随分開いているのだが。
「ウッ! しぬっ! ……あぶなあー!」
記憶の姿と目の前で聞こえた野太い声のギャップがおかしくて、思わず笑みが零れた。コントローラーの音が、レバーの摩耗が心配になるくらいにガチャガチャと鳴り続けている。画面を見れば、お互い残り一機で瀬戸際の戦いをしているようだった。
「壊さんといてや」
「だいじょーぶ」
「信用出来ひんなあ」
言いながら隣に腰かけ、癖のように机の上のスマホを手に取った。LINEを返し、Twitterを眺める。
程なくして横から「あっ」と言う声が聞こえたかと思うと、画面いっぱいに『GAME SET』の文字。次いで出てきたリザルトは彼女の敗北を示していた。
「惜しかったのになー」
あーあ、と肩を落とすAだったが、隙ありとばかりに俺は手元のコントローラーを取り上げた。
「ちょ、リベンジ戦!」
「あとでなんぼでもやらしたるて。その前に俺はお前と話さなあかんことがあんねん」
わかりやすく唇を尖らせるAだったが、それ以上特に反抗することもなく大人しくテレビを消した。
「なんでしょう」
「『なんでしょう』ちゃうんよ。どうしたん突然来て。てかまず俺、Aちゃんにここの住所教えたっけ?」
実家を出てからというもの、隣人一家の子である彼女との物理的な繋がりは切れたはずだ。連絡は時々取り合っていたが、かといってそれも毎日ってわけじゃない。
Aは数秒考えて、俺の問いに答えた。
「すぐるくん寂しいかなって思って。あと住所は年賀状から」
年賀状。盲点だった方法に納得する。そういえばずっと出していた。家が隣同士だった頃から律儀に郵便局を介して届けていたので、その名残で毎年末出さないと落ち着かなくなってしまったのだ。
「別に寂しくないよ」
「ごめん」
「え?」
「嘘、ついちゃったかも」
どういう意味だとAの顔を見る。年賀状がか? そんなあかん方法で住所取得したんか?
やがてAが「どうしても言わなあかん……?」と何故だかもじもじとしながら聞くので戸惑いつつ頷いた。
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静寂(しじま)(プロフ) - エミさん» 返信遅くなりすみません…!ありがとうございます!最近忙しいのとネタ切れで更新できてませんが更新は続けますので気長にお待ち頂けると嬉しいです! (2022年4月13日 0時) (レス) id: 8344300b59 (このIDを非表示/違反報告)
エミ(プロフ) - 静寂様の書かれるお話が凄く好きです…これからも更新楽しみにしています〜!☺ (2022年4月2日 0時) (レス) id: a0e3c6c9d5 (このIDを非表示/違反報告)
静寂(しじま)(プロフ) - 咲世さん» コメントありがとうございますー!楽しんで頂ければ幸いです!🙇♀️ (2022年2月13日 17時) (レス) id: 8344300b59 (このIDを非表示/違反報告)
咲世(プロフ) - バレンタインの更新楽しみにしてます! (2022年2月13日 9時) (レス) @page19 id: d952fb547f (このIDを非表示/違反報告)
静寂(しじま)(プロフ) - 千寿さん» まさに表現したかったことが伝わったようで良かったです〜!次回ありましたらぜひまたよろしくお願い致します! (2022年1月29日 18時) (レス) id: 8344300b59 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:静寂(しじま) | 作成日時:2022年1月21日 0時