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目的地に着いた頃には前を行っていた集団は帰り支度を終えていて、ぞろぞろと出てくる彼らとすれ違う形になった。用事の内容的には二人きりの方がありがたいからいいのだが、彼の意識が私に集中していると思うとそれだけで心臓が暴れて仕方がない。
「ほんで、用事って?」
決して広くはない部屋にただ二人。あまりの静けさに自分の鼓動がすぎるにも聞こえてしまいそうだ、なんて月並みな表現が私の頭を駆けていく。
叫び出してしまいたい衝動を抑えながら、リュックから小箱を取り出した。
「これ、すぎるに」
「え、に、2個目?」
そう聞いてくるすぎるは本当にわかっていないのか、照れ隠しなのか。
ああもうどっちでもいい。今はこの恥ずかしすぎる状況からただ逃げたい。
「い、一応手作りしたから! 要らんかったら捨てるか家族にでもあげて! じゃ、明日ね!」
早口でまくし立ててからひったくるようにしてリュックを背負って、私は部室から飛び出す。明日からどんな顔して部活しよう、と後悔にも似た感情が湧き出た時、後ろから「A!」と呼び止められた。帰ればよかったのに、足を止めてしまう。
「えこれ、そういうことちゃうのお!?」
「……そういうことって?」
「その……そういうことっていうのはあー! ……いやもぉーこれ……違ったら恥ずかしいやつやんかあ……」
後ろから聞こえるそんな情けない声を急かしたいのをグッと堪えて、続きを待つ。思わせぶりな言葉選びに、いちいち期待しちゃダメだとは思う。けれどもそんなのはもう手遅れだった。
「その……本命じゃ、ないんですか、?」
縋るような問いかけにきゅうと胸が締め付けられた。
ずるい。自分はどう思ってるか言わないくせして、私の気持ちは確かめるんだ。
「……そうって言ったら?」
「え? え? マジで? いやそんなんもう、嬉しいどころじゃないねんけど……」
.
その日、私たちは一緒に帰った。さりげなく掬われた手はもちろん、満たされた心はもっとぽかぽかしていた。それはもう、チョコなんて溶かしてしまうほどに。
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静寂(しじま)(プロフ) - エミさん» 返信遅くなりすみません…!ありがとうございます!最近忙しいのとネタ切れで更新できてませんが更新は続けますので気長にお待ち頂けると嬉しいです! (2022年4月13日 0時) (レス) id: 8344300b59 (このIDを非表示/違反報告)
エミ(プロフ) - 静寂様の書かれるお話が凄く好きです…これからも更新楽しみにしています〜!☺ (2022年4月2日 0時) (レス) id: a0e3c6c9d5 (このIDを非表示/違反報告)
静寂(しじま)(プロフ) - 咲世さん» コメントありがとうございますー!楽しんで頂ければ幸いです!🙇♀️ (2022年2月13日 17時) (レス) id: 8344300b59 (このIDを非表示/違反報告)
咲世(プロフ) - バレンタインの更新楽しみにしてます! (2022年2月13日 9時) (レス) @page19 id: d952fb547f (このIDを非表示/違反報告)
静寂(しじま)(プロフ) - 千寿さん» まさに表現したかったことが伝わったようで良かったです〜!次回ありましたらぜひまたよろしくお願い致します! (2022年1月29日 18時) (レス) id: 8344300b59 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:静寂(しじま) | 作成日時:2022年1月21日 0時