【ナ】醒めない恋で彩って【短編集】

お互い様/蘭 ページ2

「キスってどんな感じなんだろ」
「うん」
「ねえ、聞いてんだけど」

うるさい。わざと無視してんのわかれよ。そんな思いを込めて、目の前の幼なじみを一瞥した。箸で摘んでいたブロッコリーはそのまま彼女の弁当箱に移す。

「あーあ、すぐそういうことすんだから」
「いいじゃん。俺は嫌いだけどお前は好きなんでしょ？ ウィンウィンだよウィンウィン」
「そういう問題じゃ……」

とは言いつつ彼女は素直に口に運ぶものだからやめられない。あんなブツを当たり前のように咀嚼し当たり前のように次の一口に手を伸ばすなど俺には到底理解できないが、喜んでいるみたいなのでまさにウィンウィンだと思う。

「で、どんな感じだと思う？」
「ゴホッ、」

思わず噎せた。終わったんじゃなかったのかよその話。

「どんな感じって……ドキドキすんじゃないの。距離近いからその人の匂いとかするだろうし。いやてかこの話ほんとなんなんだよ」

人が恥を忍んでせっかく説明してやったというのに、どこか小馬鹿にしたような顔でこちらを見る彼女。「なに」と聞けば、「いや？」と答えてお茶を含む。

「『距離』とか、なんか具体的だなって。妄想したことあるでしょ」
「ない」
「嘘ばっか。顔赤いよ？ なんかニヤついてるし。きも〜」

あはは、と笑うこいつは気付いてないのかな。人のこと言えないってこと。
彼女にこんな顔をさせるのが誰なのかは気になるけれど、聞いたら絶対に俺も言わなきゃいけない流れになるから聞かない。
だって引くだろ。いくら幼なじみったって、俺みたいな陰キャがお前みたいな明るい奴のこと好きとか。絶対笑うだろ。

「……鏡見てきたら？」
「なにそれ私がキモいってこと？」

ちげーわ。そう言いたいのを堪えて、ノーコメントの口実作りのために豚肉を口に詰め込んだ。わあわあと正面から何か言われているけど無視。あんまり近付くと彼女の匂いがして今度こそ妄想してしまうからやめてほしい。

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