恋は盲目/3 ページ1
私が想いを寄せる彼はとても紳士だ。周囲の人間は変態だとかドスケベだとか、その方向に散々な評価をするけれど、どう言われようと私にとっての彼が紳士であることには変わりなかった。これって恋は盲目ってやつかな？ きっとそうだよって言われるんだろうなあ。
でもこの間だって、酔っ払いの相手は面倒だろうに飲みすぎた私の介抱係を進んで受けてくれたみたいだし
満員電車でたまたま乗り合わせた時は私を壁際に追いやるようにして人の圧から守ってくれたし
今だって、私が介抱を頼むことに申し訳なさを感じていることをわかって、リラックスして飲めるようにって彼の家に招かれて──
．
テーブルの上で彼の大きな手が私のそれに重なる。反対側でグラスを持つ手はまったく動かなくなってしまって、見兼ねた彼に指を一本ずつ開かれていった。そうしてついに両手を包まれてしまって、体温が指先から私の身体を温めていく。
「あなたは、よく俺のことを『優しい』とか、『紳士だね』とか、言ってくれてましたよね」
私が頷かなくても、彼は構わず続ける。
「俺も今までそのイメージが崩れないよう、精一杯努力してきたつもりなんです。まあ、周りはめちゃくちゃ邪魔してきましたけど」
笑い混じりに彼は言った。
鼓動が耳の奥でどくどくと響いて、耳を塞げない私の代わりに彼の言葉を遮ろうとしている。
「でもね、だめですよ。どんなに仲が良くても、家まで来ちゃあ。勘違いされてもおかしくないんだから」
こうやってね。
耳元で囁かれたかと思えば、首筋に熱の篭った息がかかる。柔らかな感触を一瞬感じて、思わず肩が跳ねた。
「肩跳ねさせちゃって……かわいーなあ。……こっち見て」
そんな風に優しく言われてしまっては、ギリギリで保った一線などもはや優に飛び越えられて、私は自ら求めるように目を閉じ唇を差し出した。わざとらしくちゅ、と音を立てて、またついて離れた感触。ゆっくりと開けた瞼の先で、彼がすっと目を細めた。
「ね、Aさん。できるだけ紳士的にしますから。あなたの俺に対するイメージが崩れると困るんでね」
そう言いながらも既に腰に回された手が焦れったいとばかりにすりすりと撫でる様はさながら獣の前掻きで、きっとこの約束が守られることはないんだろうと熱に浮かされた頭でぼんやりと考える。
──ああ、やっぱり私は盲目だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 89人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
静寂(しじま)(プロフ) - エミさん» 返信遅くなりすみません…！ありがとうございます！最近忙しいのとネタ切れで更新できてませんが更新は続けますので気長にお待ち頂けると嬉しいです！ (2022年4月13日 0時) (
レス) id: 8344300b59 (このIDを非表示/違反報告)
エミ(プロフ) - 静寂様の書かれるお話が凄く好きです…これからも更新楽しみにしています〜！☺ (2022年4月2日 0時) (レス) id: a0e3c6c9d5 (このIDを非表示/違反報告)
静寂(しじま)(プロフ) - 咲世さん» コメントありがとうございますー！楽しんで頂ければ幸いです！🙇♀️ (2022年2月13日 17時) (レス) id: 8344300b59 (このIDを非表示/違反報告)
咲世(プロフ) - バレンタインの更新楽しみにしてます！ (2022年2月13日 9時) (レス) @page19 id: d952fb547f (このIDを非表示/違反報告)
静寂(しじま)(プロフ) - 千寿さん» まさに表現したかったことが伝わったようで良かったです〜！次回ありましたらぜひまたよろしくお願い致します！ (2022年1月29日 18時) (レス) id: 8344300b59 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：静寂(しじま) | 作成日時：2022年1月21日 0時
