標的140 歌 ページ45
『ん〰〰♪ん〰〰♪』
不思議と心地良い声‥‥鼻歌を歌っていたのはあの人間だった。縁側で肩に羽織りをかけて座っていた。
「こんな夜更けに何を歌ってるんだ」
声をかけたのはただの好奇心だった。
『ッ！大包平‥‥いや、あまり深い意味は無い。なんの歌かもわからないからな』
「わからないだと？」
『ああ、何故か耳の中でこの歌を覚えていてな。歌うと落ち着くんだ』
歌詞も歌えたらいいんだが、なんの曲なのかさっぱりわからないな。
と言ってこいつは苦笑いした。
「フン‥‥そんなもの知るか、赤子の時に親が歌ってたんじゃないか？」
『親か‥‥』
適当に言うと、何か考え込むような顔をした。
『私にもいたんだろうが、親の記憶がないから証明しようがないな』
そういえば、この本丸に飾ってある写真などは大体見たがこいつの家族らしきものの写真は一つもなかったな。
『まあ例え居たとしても、私は会う気は無い』
再会した娘が殺し屋で化け物になっていたなんて嫌に決まっている。
ほんの僅かに聞き取れたその言葉はとても物悲しく感じた。
『今日はもう部屋に帰って休め、冷えるぞ。おやすみ』
そう言って去りながら振る手は、俺を庇った時に怪我をした手。だがその手には傷一つ残ってなどいなかった。
人より傷の治りが早いとは聞いてはいたが、それでも生身の人間には変わりない。痛みも感じる。
こいつ、俺が殺してやると言っているのに怪我しそうになったら庇って己が怪我を負い、更には己の家族のように接してくる。
一体何を考えているのかさっぱりわからない。
暫く考え込んでいると流石に体が冷えてきたので俺は部屋に戻って眠りに落ちた。何故かこの日、悪夢に陥ることは無く、あの女の歌声がどこかで聞こえた。
次の日、鶯丸が合わせたい奴がいると言って部屋から連れて行かれた。
暫く廊下を歩けば、何振かの短刀達とすれ違い、育てた花が咲いたから後で見に来て欲しいなどの会話も少し交わした。
「おい鶯丸、一体誰に会わせたいと言うんだ」
「まあ会ってからのお楽しみだ‥‥着いたぞ」
着いた場所は、東側にある部屋だった。
ここにはまだ足を踏み入れたことはなかったな。
鶯丸が襖に手をかけ開けた先には、
「なっ⁉きさ、いや貴方は‼」
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作者名：☆にゃんロック☆ | 作成日時：2019年3月14日 22時
